飯沼珠実は1983年東京生まれ、2018年東京芸術大学大学院博士後期課程修了。現在はライプツィヒ、パリ、東京の3都市に活動拠点を置き、建築、写真、出版というメディアを自身の身体を通して理論的に構築しながら制作を行っている。主な個展に「建築の瞬間」(ポーラ美術館 アトリウム・ギャラリー、2018)、「建築の建築」(六本木ヒルズクラブ、2017)などがある。
飯沼は近年、東ドイツで日本人が建設を行った3都市・3軒のホテルについてリサーチし、それを5つの章にまとめた書籍を出版。これを記念し、そのなかの第4章「二度消された記憶」に焦点を当てた展覧会「Japan in der DDR - 東ドイツにみつけた三軒の日本の家/二度消された記憶」が、KANA KAWANISHI PHOTOGRAPHYで開催される。会期は11月9日~12月14日。
2014年、ライプツィヒ、ドレスデン、ベルリンの各都市に、鹿島建設が受注したホテルがあることを知った飯沼。現地で関係者にインタビューを行い、様々な資料を調査するなかで、1979年に建設事務所で空き巣被害があったことを突き止める。この事件で盗まれたのは、ドイツマルクの現金と、35ミリフィルムカメラのなかに入ってたフィルム。カメラ本体は、こじ開けられた金庫のなかに残されていたという。
このことに着想を得た飯沼は、自身も35ミリのフィルムカメラでベルリンのホテル周辺を撮影。帰国後、東京の現像所にフィルムを持ち込むと、現像機の整備不良のためにイメージが白く消えてしまうという出来事に遭遇する。東ドイツではおそらく秘密警察のスパイによって、東京では偶然の人災によって「消えた」というよりも「消され」てしまった記憶。本展ではそのとき撮影された写真などから、「二度消された記憶」の痕跡をたどる。