ドキュメンタリーとフィクションを組み合わせた写真で知られるアメリカの写真家、フィリップ=ロルカ・ディコルシア。その中華圏での初個展が、9月10日よりデイヴィッド・ツヴィルナー香港で開催される。
1951年コネチカット州・ハートフォード生まれのディコルシアは、79年にエール大学の美術学修士号を取得。80年代から、友人や家族、見知らぬ人、ポールダンサー、街娼など、様々な人々を被写体として写真作品を制作してきた。
93年にニューヨーク近代美術館で開催された初の美術館個展をはじめ、これまでソフィア王妃芸術センター(マドリード、1997)やシュプレンゲル美術館(ハノーファー、2000)、Foam写真美術館(アムステルダム、2006)、ICAボストン(ボストン、2007)などで個展を行ってきた。
本展では、ディコルシアのキャリアを総覧する写真作品を展示。友人や家族の姿を表現した80年代の初期作品に加え、90年代初期に制作した代表的な「Hustlers(街娼)」シリーズを見ることもできる。ロサンゼルスのサンタモニカ大通りの付近を舞台にしたこのシリーズは、モーテルの部屋や街角、駐車場、そして車の後部座席で撮影した男性およびトランスジェンダーの街娼の写真で構成。作品名には、対象者の氏名、年齢、出身地のほか、性サービスの費用などが記載されている。
また、アンリ・カルティエ=ブレッソンやウォーカー・エバンス、ダイアン・アーバスなどのストリートフォトグラファーに応答した「Streetwork」や「Heads」シリーズ、1997年から2008年のあいだに『W』誌のために撮影した一連のプロジェクト、そしてプライベートシーンや特徴のない場所を描写したポラロイド作品も展示される。
展示の最後は、2008年から始まった「East of Eden」シリーズ。ジョージ・W・ブッシュ時代の終わりに向けたアメリカの経済的・政治的な環境からインスピレーションを受け、金融崩壊と聖書の『創世記』との類似点を見せるこのシリーズは、幻滅感が溢れる人物や事件を描写した一連の作品となる。ドキュメンタリー的でありながら演劇的でもあり、事実と虚構の隙間を行き交うディコルシアの作品をチェックしたい。