ピーター・ソールは1934年サンフランシスコ生まれのペインター。80年代から90年代にかけてテキサスに移住し、テキサス大学で教鞭を取った。58年にアメリカの風刺雑誌『MAD』を参考に、ドナルドダックやミッキーマウスを引用しながら描いたソールのマンガ的作品が再発見されたことによって、現在は最初期のポップアート運動に関係するアーティストとして認識されている。
そのカラフルで独特の作風は、ソールの個人的な関心と強迫観念に忠実であることから生み出されるものだ。しばしば歴史的名画のサンプリングや政治家の肖像、美術史にまつわる逸話などを題材とした作品を制作してきたソール。その作品の多くが、ソール個人の批評性を含んだユーモア、グロテスクと卑下されているものへの愛情から出発している。
その半世紀以上におよぶ創作活動において、美術の主義や潮流、権威からは一貫して距離を取り続けてきたソール。近年は作品の重要性が再認識されるに至り、2010年にはアメリカ芸術アカデミーの会員にも選ばれた。その作品は、シカゴ美術館やポンピドゥーセンター、メトロポリタン美術館、ニューヨーク近代美術館をはじめとする世界各地の美術館に収蔵されている。
そんなソールに師事するエリック・パーカーは、68年ドイツ・シュトゥットガルト生まれの画家だ。テキサス大学オースティン校とニューヨーク州立大学パーチェス校で絵画を学び、現在はニューヨークを拠点に活動を行っている。
2000年にニューヨークのMoMA PS1で開催された第1回目の「Greater New York」展に出展し、一躍脚光を浴びると、その後フォートワース現代美術館やアルドリッチ現代美術館などで個展を開催してきた。
パーカーもまた作品のルーツとして、『MAD』などの風刺雑誌や風刺イラスト、グラフィティなどへの関心を持つが、もっとも大きな影響はテキサス大学オースティン校時代に教えを受けたソールの存在だという。鮮やかな色彩と多様なモチーフの混沌とした組み合わせからなる肖像画や風景画は、ルールや潮流に縛られることなく、自身の内面を鋭く深く考察することから生まれる。その創造性に忠実であろうとする制作態度も、ソールからの影響によるものだ。
今回、師弟関係にあるソールとパーカーの2人展が、東京・渋谷のNANZUKAで開催される。本展では、ソールが本展のために完成させた新作のペインティング《Van Gogh Cuts Off His Ear》も見ることができる。
同作について、ソールは次のように語っている。「ついに、ゴッホの耳が作品の主題として降臨したことを、私はとても嬉しく思っている。モナリザに次いで美術史でもっとも有名な出来事であるにもかかわらず、85歳になるまでそれは起こらなかった。もし運が良ければ、もう何度かこの主題について取り組むことができるかもしれない、と考えている。なぜなら、彼は、私の想像のなかで ”再生”したばかりだから」。