江戸時代、数多くあった花の名所を訪れることは、人々にとって何よりの娯楽だった。また18世紀半ばには植木鉢が普及し、鉢植えを飾って楽しむ人々や、花弁を変化させた朝顔や菊細工など、多様な園芸が流行した。こうした江戸時代の「園芸熱」を、浮世絵を通して紹介する展覧会「江戸の園芸熱 -浮世絵に見る庶民の草花愛-」が、たばこと塩の博物館で開催中だ。
江戸後期には花名所のガイドブックが出版されるなど、人々の生活には四季折々の花見が根付いていた。その後植木鉢が普及すると、庭を持たない多くの江戸庶民でも身近な園芸を楽しめるようになった。浮世絵には、縁日や盛り場での植木売りや、人々が鉢植えを選び、身近に置いて愛でる様子が描かれるようになる。
また19世紀後半には、菊細工をはじめとする園芸の見世物が話題になり、四季の花を見るためのテーマパークのような施設も登場。季節ごとに花を鑑賞することは、年中行事としてさらに身近になっていく。
園芸を趣味とする人々のなかには、歌舞伎役者の姿もあった。怪談物の名手として知られた三代目尾上菊五郎は、庭に植木棚や現在の温室にあたる室(むろ)を備え、多様な植物を育てた。また、歌舞伎の舞台でも植木売りの役が登場し、小道具として鉢植えが飾られるなど、園芸は文化と密接に関わっていたと言える。
本展ではこのような江戸の「園芸熱」の様相を、「花見から鉢植へ」「身の回りの園芸」「見に行く花々」「役者と園芸」の4コーナーで構成し、前期・後期あわせて約200点の浮世絵を通して紹介する。華やかかつ鮮やかな江戸の園芸を、この機会に楽しみたい。