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北斎をアップデートする。六本木で「新・北斎展」が開幕、日本初公開作品も展示

江戸時代を代表する浮世絵師で、いまなお大きな人気を誇る葛飾北斎。その作品を通覧する大規模展覧会「新・北斎展」が、東京・六本木の森アーツセンターギャラリーで開幕した。「新」と冠した本展の特徴とは?

展示風景より、《弘法大師修法図》(1844-47)

 「冨嶽三十六景」シリーズや、19世紀のヨーロッパにおけるジャポニスムの流行の契機となった『北斎漫画』などで知られる江戸時代後期の浮世絵師・葛飾北斎(1760〜1849)。その画業を、約480件という膨大な作品によって通覧する展覧会「新・北斎展」が、東京・六本木の森アーツセンターギャラリーで開幕した。

 「新・北斎展」と冠した本展は、2000件を超える北斎と北斎派のコレクションを所有していた北斎研究の大家・永田生慈(1951〜2018)が10年以上温めてきたもので、70年に及ぶ北斎の画業を、落款ごとに6章に分けて紹介。北斎は、その生涯において30回もの改号を行ったことで知られているが、本展では第1章の「春朗」から始まり、「宗理」「葛飾北斎」「戴斗」「為一」、そして「画狂老人卍」の6つの名前における作品が並ぶ。

展示風景
展示風景

 絵のスタイルや技法を次々と変え、つねに自分をアップデートしてきた絵師である北斎。本展構成は、そんな北斎の変化を分かりやすく示している。

 加えて本展の大きな特徴となるのが、日本初公開作品の数々だ。これまで、日本のみならず海外でも多数の展覧会が行われてきた北斎。しかし、その作品の全容はいまだ完全には研究されておらず、現代においても新たな発見がなされてきた。

 アメリカ・シンシナティ美術館所蔵の肉筆画《向日葵図》(1847)は、北斎が88歳の時に描いたもの。北斎作品にヒマワリを題材にしたものは少なく、軸の縦長の空間に凛としたヒマワリが咲く本作は、最晩年に描かれたという点からしても珍しい作品だという。

展示風景より、手前が《向日葵図》(1847)

 また、同じくシンシナティ美術館所蔵の《かな手本忠臣蔵》(1804-13頃)は、言わずと知れた『忠臣蔵』を題材に描かれたもの。北斎は錦絵ではすでに6種類の忠臣蔵作品を手がけているが、この《かな手本忠臣蔵》は7種類目のものとなる。

展示風景より、《かな手本忠臣蔵》(1804-13頃)の一部

 なお、本展では永田生慈のコレクションから多数の作品を特別展示。永田コレクションはその遺志により、本展出品後は島根県のみでの公開となるため、本展が永田コレクションを東京で見る最後の機会となる。

 永田コレクションからも日本初公開の作品がある。例えば春朗期に描かれた《鎌倉勝景図巻》(1793-94)は全長9メートルにもなる大作。杉田(現在の横浜市磯子区)を出発し、鎌倉から江ノ島に至流までの30図が収められており、各図には俳句が1句ずつ添えられている(最終図のみ和歌1首)。俳諧世界とのつながりという新たな分野への進出をうかがわせるものだ。

展示風景より、《鎌倉勝景図巻》(1793-94)の部分

 また《津和野藩伝来摺物》(1789-1800)は、旧津和野藩主・亀井家の秘蔵作品。118枚におよぶ作品のなかには、春朗期の大小暦や、宗理に改号してから初めての仕事と考えられる作品、寛政期の狂歌、俳諧摺物が含まれており、その色彩の鮮やかさとともに貴重な作品群となっている。この全点が公開されるのは今回が初めて(4期に分けて公開)。

展示風景より、《津和野藩伝来摺物》(1789-1800)の一部

 本展最後には、永田が1983年に発見した西新井大師總持寺所蔵の《弘法大師修法図》(1844-47)も展示。北斎の晩年における最大級の肉筆画である本作。弘法大師が法力によって鬼(病魔)の退散を祈る場面が描かれており、黒一色の背景が鬼の存在感を際立たせる、迫力ある大作だ。

 研究者によって絶えずアップデートされる北斎像。本展は、おなじみの「冨嶽三十六景」シリーズや『北斎漫画』だけでなく、新たな北斎の側面と出会える機会となるだろう。

編集部

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