アントニ・タウレは1945年バルセロナ出身のアーティスト。 建築家資格を取得した70年から、スペインのフォルメンテーラ島、ロンドン、パリを拠点に、絵画、写真、舞台装飾の制作活動を行っている。
75年にパリのギャラリー、マチアス・フェルでの初個展を開催して以来、世界各地の美術館やギャラリーで数々の個展を開催し、グループ展にも参加してきた。その作品は高く評価され、83年にはフランスの芸術文化勲章を受賞し、今日までにゴヤ美術館(フランス、1986)、ヴィラ・タマリス(フランス、 2006)、ヴィラ・カサス財団(スペイン、2010)で回顧展が開催された。
いっぽう、世界の名だたる劇場で舞台美術を手がけてきたタウレ。 今回、東京・銀座のシャネル・ネクサス・ホールで開催される展覧会は、「光の島」というテーマのもと展開される。「光の島」とは、タウレが1970年代から拠点のひとつとしているフォルメンテーラ島を描いたシリーズだ。地中海西部、イビサ島のすぐそばに位置するその島は、 豊かな自然と絶景によって多くの人々を魅了する楽園であり、タウレのインスピレーションの源となっている。
本展に展示される作品は、近年の絵画作品と、過去の写真の上に絵を描いたミクストメディア作品の2つ。いずれの作品においても、 光と闇、現実と虚構、存在と非存在、色彩と無彩色、無限と有限といった、対照的なものどうしの境界がひとつの空間のなかに描き出されている。
なお、ほとんどの作品において人物は不在。それは何かが起こったあと、あるいは、これから何かが起こるかのような、不安と期待に満ちた空間を出現させる。
写真と絵画が組み合わさったミクストメディアは、タウレ芸術において現実と幻想、現実と表象がつねに隣接し、浸透しあっていることを端的に示すもの。タウレは、このシリーズを通じて、たしかに存在した過去の断片である写真を、彩色し再構成することによって、過去を現在に蘇ることを試みている。
写真と絵画が相互に干渉する本展では、過去と現在とが浸透しながら独特のオーラを放つ様子と出合うことができるだろう。