日本の現代銅版画を牽引した駒井哲郎(1920〜76)は、深淵な詩的世界が刻まれた作品によって国内外で高く評価されてきた。
多彩な銅版技法を駆使し、微妙な濃淡の面と鋭い線、緻密な描写と幻想的な抽象形態、ストイックなモノクロームと色彩あふれる画面など、一見相反するような作風を同時並行で追求しながら、幅広い表現を生み出した駒井。
銅版画を追求したいっぽうで、1950年代には前衛芸術家集団「実験工房」に参加し、作曲家・湯浅譲二との共同制作によるオートスライドや、立体オブジェを制作。また、50年代後半からは大岡信や安東次男といった詩人たちの詩画集や詩集の装幀などを手がけた。
そんな駒井の作品や、駒井の交友関係に焦点を当てた展覧会「駒井哲郎―煌めく紙上の宇宙」が横浜美術館で開催される。
本展では、駒井作品を初期から晩年までを6章でたどり、その作品の展開や芸術家たちとの交流、そして影響関係にも迫り、多面的な駒井の姿をとらえ直すというもの。色彩家としての知られざる一面も、世田谷美術館が所蔵する福原義春コレクションを核とした色鮮やかなカラーモノタイプによって紹介する。駒井の版画作品や詩画集など約210点とともに、関連作家作品約80点が展示される充実の内容だ。
また、西洋美術に影響を受けていた駒井は、敬愛するオディロン・ルドンをはじめ、パウル・クレーやジョアン・ミロについての評論を美術雑誌などへ数多く寄稿しており、そこから駒井自身の芸術観を読み取ることができる。本展では、駒井の文章を紐解きながら、駒井が敬愛した西洋画家たちの作品と、駒井作品を包括的に並べる初の試みでもある。
黒いインクと白い紙の豊かな表情のなかに立ち上がる、夢と狂気のあわいをさまよう駒井の宇宙のような作品世界を、様々な角度から堪能できる展覧会だ。