商品以上、作品未満。美術史への批評と遊び心が表れた森村泰昌の「モリムラ絵画館」が開催

美術史上の有名絵画や、有名人などになりきったセルフ・ポートレートで知られる森村泰昌の、最新マルチプル作品を展示する「森村泰昌の絵画館」が東京・恵比寿のNADiff Galleryで開催される。会期は6月9日〜24日。

©YASUMASA MORIMURA

 森村泰昌は1951年大阪府生まれ。フェルメールやマネの作品など、美術史上で重要視されている作品に描かれた人物や、マリリン・モンローなどの有名人に扮したセルフ・ポートレートで知られている。芸術家としての活動に留まらず、執筆業や「横浜トリエンナーレ2014」ではアーティスティックディレクターを務めるなど、その活動は幅広い。

 そんな森村の個展「森村泰昌の絵画館 ―MoriP100プロジェクト/モリムラが手がけるマルチプルアートの新機軸―」が、恵比寿のNADiff Galleryで開催される。本展で展示されるのは、そのタイトルのとおりマルチプルの最新作。マルチプルとは工業的に量産が可能な作品のことだ。

 マルチプルプロジェクト「MoriP100」を2017年から開始した森村。これは、合計100種類のマルチプル作品を、1アイテムにつき各100点を制作し、のべ一万人に一万個を手渡していくという壮大なプロジェクトだ。第1弾はアンディ・ウォーホル、第2弾はフリーダ・カーロをテーマとしてきた同プロジェクトの、第3弾となる最新作は、肖像画の絵画作品をテーマにした「モリムラ絵画館」。

 「モリムラ絵画館」は、ミニチュアの「モリムラ絵画」計6点が、輸送用のクレート(実際の作品輸送時に使われる保護用の函)に収納され、オリジナル作品の気分を演出する、細部の再現性に優れたマルチプル。6点の肖像画作品は、デューラー、ダ・ヴィンチ、ベラスケス、フェルメール、ゴッホ、ルソーという作品群で、購入者はミニチュア空間で絵画館をつくることができるというキットだ。

©YASUMASA MORIMURA

 「マルチプルとは、商品以上、作品未満のプロダクトである」と語る森村は、豪華一点主義の「作品」でもなく、社会のニーズに合わせて無際限に生産する「商品」でもない、マルチプルの位置取りに関心を寄せてきたという。芸術を作り出す側と芸術を受容する側の、もっとも良好な関係性を目指し、「21世紀を生きる芸術家の良心」として100点限定のマルチプル「MoriP100」が構想された。

 マルチプルを解釈する森村の視点の中にある、美術史への批評とアンチテーゼ、そして遊び心が、一つひとつ盛り込まれているという同作。森村の手掛けるマルチプルアートの新機軸を楽しみたい。

 なお、会場となるNADiff A/P/A/R/Tと同ビルの3階にあるギャラリー、MEMでは、森村泰昌展「高く、赤い、中心の、行為」が2018年6月9日~7月8日の会期で同時開催されている。こちらもあわせて足を運びたい。

編集部

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