いわさきちひろは1918年福井県生まれ、東京育ち。絵を岡田三郎助、中谷泰、丸木俊に師事したほか、藤原行成流の書を学ぶ。50年に紙芝居「お母さんの話」を出版し、文部大臣賞受賞したほか、その後も小学館児童文化賞、産経児童出版文化賞、ボローニャ国際児童図書展グラフィックなど多くの賞を受賞。74年に亡くなるまで精力的に活動したいわさきは、2018年に生誕100年を迎えた。
そんないわさきの画業を振り返る展覧会「生誕100年 いわさきちひろ、絵描きです。」が、東京ステーションギャラリーで開催、その後は京都と福岡に巡回する。
いわさきの作品の特徴には、にじむ色彩で描かれた子どもたち、花々、そして大きく空けられた余白などが挙げられる。その作品は絵本、挿絵、カレンダーなど、さまざまなメディアとなって生活の隅々にまで浸透しており、その高い人気は世界にまで広がりつつある。そのいっぽうで、「子ども、花、平和」などのモチーフ、あるいは「かわいい、やさしい、やわらかい」といった印象ばかりが注目されやすい。
本展は新出の資料も含む約200点の展示品を通じて作品の細部に迫り、童画家としてのいわさきのイメージの刷新を試みるという内容。いわさきはどのような文化的座標に位置し、どのような技術を作品に凝らしたのかを、いわさきの原風景、時代や文化状況との呼応関係を追う前半部と、作品の魅力に分析的に迫る後半部に分けて考える。
貴重な戦前の資料や、プロレタリア美術に連なる紙芝居や幻灯、まとまって見られる機会の少なかった油絵などを通して、これまで掘り下げられていなかった「ちひろ像」を浮かび上がらせる本展。「いわさきちひろといえば子どもや花の絵」という多くの人々に抱かれている定型の印象をより細密にするべく、画面に凝らされた技術に焦点を当て、「線」と「色彩」の現れ方に注目する。
また、本展の最後には、17年に開催された「高畑勲がつくるちひろ展」(ちひろ美術館・東京)の成果を踏まえ、原画の拡大によってちひろの作品の中に没入できる空間が来場者を包み込む。絵本を読むときの距離感覚と展示空間の融合と、みずみずしい彩りを存分に味わえるだろう。
なお、いわさきの生誕100年を記念して、東京・練馬のいわさきちひろ美術館・東京と長野県の安曇野ちひろ美術館では、いわさきと様々な分野の作家のコラボレーション展覧会、いわさきちひろ生誕100年「Life展」が年間を通じて開催されている。こちらも合わせてチェックしたい。