80年代の千葉県・船橋の日常に光を当てる。北井一夫の個展「フナバシストーリー」が開催

1985年頃の千葉県船橋市の団地や新興住宅地で暮らす人々の生活を撮影した北井一夫の個展「フナバシストーリー」が、東京・新宿のYumiko Chiba Associatesで開催される。会期は2018年5月25日〜6月23日。

北井一夫 フナバシストーリー © Kazuo Kitai Courtesy of Yumiko Chiba Associates

 1944年生まれの北井一夫は60年代、横須賀の原子力潜水艦寄港反対闘争をテーマにした「抵抗」や、大学民主化を要求する学生運動を撮影した「過激派・バリケード」等の刺激的な作品を制作。70年代に入ると、日本の経済成長とともに急速に失われていく農村社会の営みをとらえたシリーズ「村へ」「いつか見た風景」を発表する等など、その眼差しはつねに時代と向き合ってきた。そして80年代、バブルに向かいつつあった日本社会の中で、北井の関心は団地や新興住宅地で暮らす人々の生活に移る。

 本展に展示されるのは、85年頃の千葉県船橋市の団地に暮らす人たちを撮影した「フナバシストーリー」。これは、80年代に人口が急増した千葉県船橋市の行政から北井が「生活する人たちと町の写真を撮ってほしい」と依頼されたことから始まったシリーズだ。当時の船橋市は、東京郊外のベットタウンとして団地や新興住宅地の建設が進み、住民の8割は大都市近郊に移住をした住民であると言われていた。北井は、同じ建物が均等かつ無機質に並ぶ区画整理された集合住宅の中で、淡々と繰り返される個々の生活に目を向け、丹念に取材と撮影を重ねることでその場所や人々の持つ明るい光を切り出している。

 変遷していく時代の流れを敏感に感じ取り、それを実直かつ丁寧に撮影することで垣間見られる日常の光景を写し出した北井。同作を通じて、複雑に変転する現実の社会の中で見過ごされてきた風景や日常を見ることができるのではないだろうか。

編集部

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