洋の東西を問わず、女装や男装の文化は古くから見られる。日本でも、『古事記』のヤマトタケルが女装して熊襲を退治した話や、中世の稚児による女装や芸能に見られる女装、江戸時代に生まれた歌舞伎の女形など、異性装は庶民にとって身近なものとして存在し続けてきた。
本展では、江戸時代に描かれた浮世絵を通して、男女の境界を自由に行き来する江戸の風俗や文化の諸相に迫る。
見どころは、月岡芳年の《風俗三十二相 にあいさう 弘化年間廓の芸者風俗》。「風俗三十二相」は、芳年が晩年に手がけた、「寒そう」「痛そう」などといった様々な女性の表情を題材にした美人画の揃物。本図では、吉原の祭り「俄」に参加した芸者の女性が、男髷を結い鳶のような恰好をした姿が描かれている。
そのほか、『南総里見八犬伝』などの物語に登場する異性装の人物や、女装のスペシャリストである歌舞伎の女形を描いた作品、「やつし絵」や「見立絵」などと呼ばれた歴史や物語の登場人物の性別を入れ替えて描いた作品などが展示される。