「才能を解き放て」。伝説的ノートブック、モレスキンと同財団が目指す創造と表現の未来とは?【2/3ページ】

展示に込められた「才能を解き放て」というメッセージ

──今回の東京での展示に先立って、大阪・関西万博のイタリア館で「Detour」の大阪展が開催されました(8月23日に終了)。その手応えや感想についてお聞かせください。

アーシャンボウ 一言で表すなら「Great」、素晴らしい展示でした。現在のモレスキンがイタリアでデザインされているということで、国を代表して大阪・関西万博に参加できたことは、大変光栄なことだと思っています。この大阪展では、イタリアと日本をはじめとする世界各国のアーティスト68名による作品や、モレスキンと大阪芸術大学による共同プロジェクト「Unleash Your Genius」アートコンペティションの受賞作品が出品されましたが、開催期間中におよそ30万人もの方々が来場されたと聞いています。私がその場に身を置いて感じたことは、来場者のみなさんがじっくり鑑賞し、キャプションもしっかり読んで、各作品の背景やストーリー、作家の考えなどを理解してくださっていたということでした。

会場では、来場者がモレスキンのノートブックを使い、「クリエイティビティで世界をどう変えられるか?」「いまこそ才能を解き放とう」といった話題について書いたものを飾る体験テーブルも用意されている

──大阪・関西万博でイタリア館は一番人気のパビリオンとして大きな話題になりました。 

サンネ イタリア館にはモダンの時代を扱ったパートと、レオナルド・ダ・ヴィンチやカラヴァッジョなどの作品を展示したルネッサンスなどの歴史を担うパートがあり、その中間に配置されたモレスキンの展示は、いわば2つの時代をつなぐような位置付けでした。この展示には人間性のタイムレスな部分が表されていたと思います。というのも、モレスキンノートや「Detour」展の出品作品に込められた思いや夢は、たとえ16世紀の昔であったとしても同じように素晴らしいものだったに違いないですし、未来であっても同様だと思うからです。モレスキンノートが過去と未来の架け橋になる、そんな可能性を示すことができたのではないかと思います。

──世界を巡回してきた「Detour」展ですが、日本においては大阪と東京の2ヶ所で開催となったのみならず、東京展では独自の構成で展示されていますね?

アーシャンボウ 日本はモレスキンにとって重要なマーケットであることが理由のひとつではありますが、デザイナーの故・三宅一生氏が創設した三宅デザイン事務所とモレスキンとのコラボレーションが実施されることになり、やはり三宅氏が共同創設者である21_21 DESIGN SIGHTでぜひ展示したいと、東京展の開催が決まりました(※両社の共同創作によるデザインツールNOTE-A-NOTEは、この東京展で初披露された)。

モレスキンと松本陽介(三宅デザイン事務所)とのコラボレーション作品《視点3|NOTE-A-NOTE 展開》(2025、部分)

──東京展はどのようにして展示が企画されたのでしょうか?

サンネ 「Detour」展の核となっているのは、コラボレーションです。これまで世界の都市を巡回してきましたが、モレスキン財団の掲げるミッションに共感してくださる様々な業種の方々に、モレスキンのノートを使って制作していただき、それらの作品は展示されたのち、財団に寄付していただきます。そのうえで重要となるのが、それぞれの国や都市の文化や抱えている社会的課題などで、制作者の選定やキュレーションが一層重要となるのは言うまでもありません。今回、日本を代表するキュレーターの長谷川祐子氏と、東京の亀有を拠点とする芸術文化センター「SKWAT KAMEARI ART CENTRE(SKAC)」に依頼できたことは、大変幸運でした。企画を進めるうえで、彼らと日本の社会的環境や問題について議論しながら、協力していただく制作者や展示内容を考えることができました。

──東京展の見どころや鑑賞のポイントいついて教えてください。

サンネ ノートブックはとてもパーソナルなツールで、いろいろな思いや夢、すべてがこもった、いわば自分の一部ともいえる存在です。ですから、Detour展で展示されている作品は、個々のアーティストや制作者の思考、クリエイティビティが表れていると言えます。そして今回の展示でぜひ注目していただきたいのは、すべての作品には異なるストーリー、異なる背景があるということと、そのいっぽうで、それらがみな共通してクリエイティビティの重要性を示しているということです。

 「Detour」は「迂回」や「回避」を示す単語ですが、「普段とは違う別の道を歩む」という意味も持っています。別の道を行けばその分余計に長くなるかもしれませんが、そこで得る経験や時間に重要性があるというコンセプトが、この展覧会名に込められているのです。「Detour」展の個性的なノートブックアートの鑑賞体験が、みなさんのなかにあるクリエティビティに目を向けるきっかけになれたら、これほど嬉しいことはありません。

「Detour Tokyo」展の展示風景より

編集部