古いポストカードや旅行パンフレットの小さな写真から発想を広げ、風景画や動物画を描くムラタ有子。行ったことのない風景を想像しながら、また、動物はかわいくて仲良くなりたいと思ってもなかなか通じ合えない、「何を考えているかわからないような謎の存在」としてイメージを描き上げる。
「フランツ・カフカの小説『城』が好きなんです。主人公が城を目指しながらも、なかなかたどり着けない道のりを描いたお話です。その道のりでいろんな人たちと出会うのですが、その人たちがみな曲者で、全然気持ちが通じ合わないし、会話をしようとしても暖簾に腕押しのように、相容れないというか。距離を縮めようとしても縮まらない主人公と他の人の距離があって、そこが私が描く動物たちにも通じるのかな」。
今回、GALLERY SIDE2とTHE GINZA SPACEでは、新たな試みとして手がけた作品を発表した。細長い角材や三角の木材などにキャンバスを貼り、自立する作品だ。インスタレーションとして発想したのか尋ねると、あくまでも絵画として発想したのだという。
「絵画を展示するときには作品を壁に掛けて、スペースの真ん中がガランとするので、それがどうにかならないかと思っていました。絵画を壁を必要としないで自立させることで、絵画の前後で遠近感が出るのがおもしろいかなと思い、木材を集めてきて、いろんな形にキャンバスを張って試行錯誤を始めました」。
ふと目に入った4〜5色の絵具の組み合わせから、ムンクの《叫び》に描かれた空の色を連想したムラタは、いろいろな形の木材に貼り付けたキャンバスに色を載せ始めた。細長い小さな支持体であっても、ムンクを知っている人であればその色の組み合わせから《叫び》を想像できるのではないか。「小さい空」にはそんな思いが込められている。画面の形をどこまで変えても絵画は成立するのか、そんな実験的な気持ちがムラタを制作に向かわせる。
「日本美術の、例えば長澤芦雪などの水墨画がすごく好きなんです。構図が大胆だったり、最低限のモチーフで余白いっぱいの画面を成立させているところから影響を受けています。私も引き算をして、ものを削り、最低限の色とモチーフで渋い世界をつくりたい」。