ランスから始まった旅
── 今回はアートウィーク東京にあわせ、大倉集古館とAnnex Aoyamaの2ヶ所で展覧会「conversations with nature 2025」が開かれています。それぞれの場所でどんな作品が見られるか教えてください。
それを説明するためにまずは、今回のプロジェクト全体のスタート地点である重要な場所についてお話しましょう。ルイナールのメゾンがあるランスのことです。ルイナールからの招待を受けてランスを訪れたときに私は、メゾンの地下にあるクレイエール(セラー)が、13世紀ごろに建材用に石灰岩を切り出していた石切り場の跡地だったと、初めて知りました。この石切り場で採れるのは、遠い昔に生きていた海洋生物たちの化石であることが、私の興味を掻き立てました。

地下の石切り場へ降りたとき私は感じました、自分はいま昔の海の記憶の中へ潜り込んでいるのだと。その瞬間、作品の着想が生まれました。
太古の海の記憶に基づいたソニックな作品です。コンポジションをつくるにあたって、私はサンゴ礁のある海へ潜り、その場のサウンドスケープを録音してきました。ダイビングは得意なのです。人間の耳には聞こえづらいのですが、水中というのは音に満ちているものです。魚は鳥のように歌をうたい、サンゴは何かを語りかけてきます。それらのサウンドをミキシングして、海洋のクワイア(聖歌隊)をコンポジションし、空間内に音を響かせることとしました。
これらランスでも使われている録音とコンポジションを、Annex Aoyamaの展示にも使用しました。音の反射やライティングも緻密に設計し、独自のインスタレーションとして構成してあります。


もうひとつの会場である大倉集古館に展示したのはこの歌のボーカリストたち、つまりはサンゴ礁でうたい語りかけてきてくれたサンゴの肖像画です。この制作にあたっては、フォトリソグラフィという技法を用いました。
死んで白化したサンゴ礁を粉砕したものと、シャンパーニュ地方の石灰岩とチョークを顔料にして4色に分け、一層ずつ石板のうえに塗布していき、海中で撮ったサンゴの写真像を浮かび上がらせるのです。
通常の写真はたんなる像の写しですが、このフォトリソグラフィは素材を被写体としているため、イメージは場所そのものとなり、それが表す環境を描写するものとなるのです。
フォトリソグラフィという技法自体は19世紀からあるものです。私が試みたのは、この古い技法をデジタル技術で再現することです。1年半ほどかけて、デジタル画像をその土地の材料によって色分解して、像を得る方法を開発していきました。






























