持続可能な運営体制と収益戦略
──最近、DIC川村記念美術館が休館になることが大きなニュースになりました。日本の美術館が厳しい状況に直面しているなかで、新しいアートセンターを設立するにあたり、収益性や運営面についてどのような戦略を考えていますか?
大田 ファイナンス的には、15年程度をひとつのフェーズとして持続できるような資金計画をしています。ただ、世の中はつねに変わるので、何が起こるか予測はつきませんが、それでもやらないで後悔するよりはやった方が良いと思っています。アーティストたちは人生をかけて作品をつくっていますし、私もただお金をかけるだけではなく、アーティストたちが未来について語り合える場をつくりたいという思いから、このプロジェクトに至りました。
──そういった体制は整っていますか?
大田 体制は整えていますが、経済状況はつねに変動します。例えば、円やドルの価値が変わることによる影響も考慮しなければならないため、非常に厳しい環境です。DIC川村記念美術館も資金面の課題に直面しており、プライベートミュージアムの運営がいかに大変かということが改めて認識されました。これはお金持ちの道楽ではなく、真剣に取り組むべき課題です。国立美術館も厳しい状況にありますが、私たちがどのように支えていけるかが問われています。
黒沢 PAN沖縄では少人数での運営体制を目指しています。私も国内外の公立の大きな美術館や行政主導の国際ビエンナーレのプロジェクトに携わった経験があり、様々な隠れたコストがかかることをよく理解しています。キュレーターとして大規模な展覧会を企画したくなる気持ちもありますが、少人数だからこそ、展覧会だけでなく運営全体を視野に入れたマネジメントが可能です。運営コストを極力削減し、経営的にも安定したかたちを目指すという点では、日本のキュレーターとしては少し珍しいスタイルかもしれません。
また、太陽光パネルや自然エネルギーの導入を検討しており、環境への負荷を減らしつつ、電力コストの削減を図ろうとしています。少人数での運営だからこそ、展覧会に集中するだけでなく、全体を見渡しながら効率的な運営を行うことが可能です。
──収益についてはどのように考えていますか?
大田 収益に関しては、私のギャラリーが一種のファンドのような役割を果たすと思っています。ディーリング以外にも様々な収益源を確保しています。現代は作品の販売が難しい時代ですので、それだけに依存するのは厳しいです。金融的な技術を活用し、作品自体もある程度金融的な視点でとらえることができますが、それに依存しすぎるつもりはありません。今回のPAN沖縄は、私にとっても大きな実験の場です。
また、入場料は設定する予定ですが、それはたんなる収益確保のためではなく、アートに対して人々が対価を支払う文化が社会的に根付いてほしいという願いを込めています。
*──イメージ内の作品は左から草間彌生《生命の置き場所》(2013)© YAYOI KUSAMA. Courtesy Ota Fine Arts、アキラ・ザ・ハスラー《Tools of Hope: Grab Your Anger》《Tools of Hope: Grab Your Hope》(いずれも2018)© Akira the Hustler. Courtesy Ota Fine Arts、ツァン・チョウチョイ《Calligraphy on Scooter》(2002)© Tsang Tsou-choi / King of Kowloon、アイ・チョー・クリスティン《In Quiescent 01》(2019)© Ay Tjoe Christine. Courtesy Ota Fine Arts、草間彌生《PUMPKIN (DAFO)》(2021)© YAYOI KUSAMA. Courtesy Ota Fine Arts、クリス・ヒュン・シンカン《MuiMui and Tess》(2021)© Chris Huen Sin-Kan. Courtesy Ota Fine Arts.