平成美術展の空間構成
──「平成美術」展に選定されたことについてどう感じていますか?
梅津 通常の意味で平成美術を振り返るなら、村上隆さん、奈良美智さん、会田誠さんみたいなスターを並べればより体現できたかもしれないけれども、むしろ椹木さんは大きな固有名だけに託せない部分から平成を描こうとしていますよね。平成美術は世代が下るにつれてまさにデブリのように砕けていくところがありますが、それらをつなぐ花粉のような存在として僕たちはいるんだと思います。
李 今回、椹木さんが呼んでくれたのは、朝鮮大の在日美術家という日本の美術界のアウトサイドにいる人間の活動だから、展覧会をつくるときのひとつの要素として入れてもらったのではないかと思うところもあります。あいちトリエンナーレ2019で津田大介さんがジェンダー平等を考慮して作家選出をしていましたが、現状のシステムを変えるための最初の段階としてそれは間違いなく重要だとは思います。だから今回、自分としても非常に良い機会なのですが、多様性の一要素、つまり在日作家や、女性といった要素としていつまでも呼ばれるのではなく、作家や仕事として評価されて、参加できればと考えています。
──展示の順路が時代順ではないと伺いましたが、どのような展示になる予定ですか?
李 朝鮮大とムサビという場所があって成立した展示なので、再展示はまったく違うものになります。会場内に「橋」を架けるとなったときに、境界も敷地も何もない場所に「橋」をつくろうと決めました。順路に沿って歩くと國府理さんの「水中エンジン」再制作プロジェクトのブースを出たあたりで、突然大きな階段状の通路が現れ、そこを上っていくことになります。上っていった先のいちばん高いところが会場のど真ん中で、「東北画は可能か?」の逆さになった日本列島が見えたり、右手にはChim↑Pomの瓦礫の《Buid- Burger》が見えるという景色になると思います。下りていった先に説明が置いてあり、そこで初めて朝鮮大とムサビの合同展だったとわかります。見に来た方が、自分の属性に直面する構成にできればとメンバーで話しています。順路で言えば、ムサビから上っていくので、ある意味でマジョリティの視点から展示を語り直してそれを追体験させ、未知の薄暗い通路に下りていってそこで初めて発見があるという構成です。
中ザワ いまのお話、マジョリティとマイノリティがあり非対称だということですね。そもそも「うたかたと瓦礫」も非対称で凸凹した印象の展覧会名だと思います。ところが、椹木さんも説明するように「平成」って「平らかに成る」ということで、この平成年間の日本の美術のなかで名前が出てきていないけれども、メジャーなものとしてスーパーフラットがあると思います。村上隆さん自身はGEISAIとして参加しておりますけれど。今回の凸凹した展示は、スーパーフラットの真逆ですよね。そういったことが、今回の展覧会の構成でも、一つひとつに小 屋をつくるみたいなところで意図されているのかなと。要するに、フラットではない、凹凸の「ダマリ」があちこちにあるような展覧会になることが目指されているのかなと思いました。
松蔭 我々は当時の作品を残していないんです。インスタレーションなのと、作品が売れる時代ではなかったので。加えて皆さんが現在進行形の方々であるいっぽうで、Complesso Plasticoはとっくに活動休止している。なので、再結成でもなく再制作というかたちで参加しています。そういうところで温度差というか、いろんな誤差を感じますね。再制作にはものすごく神経を使っていて、割り切れない部分もあったというのは事実です。
梅津 今回、参加するにあたって、各チームの出展作品を予測して、僕なりに何が足りないのかを考えて展示をつくりました。パープルームがメタファーとしている花粉がすり抜けられるような、隣のチームが透けて見える格子状の壁や小さな仮設壁をつくったり、カーペットを敷いたりして、自分たちができる余計なお世話をしようといった意図で今回の展示と付き合いました。この展覧会は意味で埋め尽くされちゃうとすごく窮屈になると思ったので、ただの色面とか、なんでもないものをパープルームがなるべく担当するように心がけました。
李 「東北画は可能か?」とパープルームのあいだに私たちの「橋」が架かると聞きました。
梅津 そうですね。きっと「東北画」とはあまり仲が良くないので「橋」を渡そうとしてくれたんだと思います(笑)。面白いのは、会場のレイアウトが時代も場所もめちゃくちゃで、ちぐはぐなキメラのような構成になっていることですね。それから美術館の水平・垂直軸に対して、少し斜めのものが 多かったりもします。そういった独特のゾーニングも展示の見どころではないでしょうか。
(『美術手帖』2021年2月号「SPECIAL FEATURE」より)
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