一貫して、人体がモチーフの彫刻作品を手がけてきた作家の中野浩二。木彫を経て、現在は石膏を素材に人体像を制作している。「かたまりを削り内側に迫るのではなく、小さな点が外側に広がり育っていくのが、自分のなかでの人間のイメージ。石膏はそんなイメージを実現するのに合っていると思いました」。
着手のスタート地点は、中野が人体の中心と考える腸や口。そこから背骨、顎へ、石膏を用いてスピーディに肉付けしていく。たやすく凝固してしまうがゆえに、手の動きや時間の痕跡が残りやすい石膏の性質を、中野は気に入っているのだという。近年主に手がけているのは、首から上の首像。それらの表情はどこか素朴で、土偶や民芸品を思わせる面影を持つが「腸の構造の延長線上に口があり、そばに目があるだけ。顔の表情自体にはあまり興味がないです」と話す。
宮城県のGallery TURNAROUNDで4月3日から15日まで開催中の個展では、「複製」がテーマの新作を発表する。「以前、首像の一部を切断したら、断面が顔に見えた。そんな偶然が続くなかで、偶然とされるあらゆるものは、再現・複製できるものなのではないかと思うようになったんです」。加えて、展覧会では3つの「方向」がキーワードとなる。「“方向”を持たせることで、腸をベースとする自分の作品にも彫刻の軸のようなものが生まれるのではないかと思いました」。
下から上、外から内へ、石膏液の動きや顔の向きなどで、作品が持つ方向は定義される。「生活の中で新しいことを知り、人間のあり方を考え、それらを彫刻で形にしてみる、というプロセスを繰り返してきました。これからも試行錯誤をしながら、ただ、人をつくっていきたいと思っています」。
(『美術手帖』2018年4・5月合併号「ART NAVI」より)