2018.1.28

【ギャラリストの新世代】
Little Barrel Project Room
水田紗弥子

美術展やイベントにまつわる業務を請け負うLittle Barrelが、2017年11月、プロジェクトルームをオープンした。展示スペースであると同時に、作家と社会を結ぶ「循環システム」のような存在を目指すLittle Barrel。代表の水田紗弥子に、スペースを立ち上げた経緯と展望について話を聞いた。

文=野路千晶

マンションの一室にあるLittle Barrel。3畳ほどのプロジェクトルームに作品が広がる
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小さな波からスタートする

日常とは違う世界で

 東京、JR大森駅の北口から徒歩3分。1階には昔ながらの喫茶店が入居し、エントランスにはサービスフロントがあるなど、クラシックな雰囲気の漂うマンションの10階に、Little Barrelはある。「違う世界に迷い込んでしまったような気分になる、独特な雰囲気が気に入っています」と、代表の水田紗弥子は建物について話す。

Little Barrel Project Room 外観

 フリーランスとして展覧会の企画・運営などを行ってきた水田が、株式会社Little Barrelを立ち上げたのは2014年。「Little Barrelでは、企業や自治体、美術館など幅広い場所や状況で、企画やコーディネーション、映像制作やカタログ編集など、展覧会にまつわる一通りの業務を行っています」。そして、ちょうど3周年を迎えた2017年、作品を紹介するプロジェクトルームを開設した。オープニング展の「Group Show #1: Project Room」では、秋山幸、大洲大作、玉山拓郎、橋本晶子を紹介。この4名は、1月14日にスタートした企画「あの小説のなかで集まろう」でもリレー形式で作品展示を行う。「4名の展示がゆるやかにつながり、小説のなかに入り込んでいくような、フィクションと現実の境界を思わせる展示になっています」。

どんな場所でも展示ができる

 美術大学を卒業後、都内のアートセンターに勤務した水田。そこで同世代の作家と関わるうちに、彼らとより直接的に仕事をしていきたいと考えるようになったという。そして、国内で作家とともに様々な展示を企画するいっぽうで、アジア各地でのリサーチやレジデンス滞在も行ってきた。こうしたリサーチの経験が、オルタナティブ・スペースに対する考えの基礎になったという。

 「アジアのオルタナティブ・スペースやアーティストラン・スペースを見るうち、ときに社会的に困難な状況がありながらも、自由な発想と工夫でスペースを運営していることがわかりました。極端に言えば“壁がなくても野外でも展示ができるんじゃないか”って。アジアでのリサーチの経験は、プロジェクトルームをスタートするうえで大きなヒントになりました」。従来的なギャラリーと同様に、作品展示を行いながらも、既存のスタイルにとらわれない実験的な試みを行っていきたい。そうした理由から、Little Barrelは「ギャラリー」ではなく、「プロジェクトルーム」と銘打っている。

取材時に開催していたのは、オープニング展の「Group Show #1: Project Room」。映像から絵画まで、多様な作品が並ぶ

作家と社会の新たな「循環システム」

 直訳すると「小さな波」を表す「Little Barrel」はサーフィン用語で「乗りこなすのが難しい小さな波」の意味がある。そのスペース名には、「難しい状況も、工夫しだいで乗り越えられる」。そして、「身構えずに、まずは小さな波からスタートしてみる」との思いが込められているという。

 「自分自身は、キュレーターというよりも“展覧会をつくるアーティスト”のような感覚です。様々な場所で展示をし、ユニークな作家と仕事をしてきたことで、企画・運営できる展覧会の幅も広がった気がするので、これからが楽しみです。Little Barrelでは作品を売るだけではなく、作家と社会を結ぶ新たな循環システムをつくっていきたい。そしてその波が次の波へと伝播するきっかけになれば、と思います」。

もっと聞きたい!

Q. 注目のアーティストは?

 ペインターの秋山幸さんです。絨毯の模様を起点とした絵画、旅行先で見かけた壁画や看板の文字の一部をコラージュした作品などを制作しています。自身のスタイルをどんどん更新してくような表現が面白く、魅力的。1月31日まで、Little Barrelにて作品を展示中です。

秋山幸 落下する空 2017

Q. 思い出の一品は?

 1988年に庭園美術館で開催された、藤田嗣治展の展覧会カタログです。小学生の頃に訪れて「こんなに美しいものがあるのか!」と純粋に感動した、美術に興味を持つきっかけとなった展覧会です。最後のページにきちんと自分の名前も書いていて(笑)、いまでも大事にしているカタログです。

 (『美術手帖』2018年2月号「ART NAVI」より)