音楽家・大友良英がゲストディレクターを務める札幌国際芸術祭2017は、美術家が作品を制作し展示するという、いわゆる美術展とは異なる視点によって準備が進められている。テーマは「芸術祭ってなんだ?」。参加者それぞれが芸術祭について考えてほしいという思いが込められており、8月の本祭に向けて、その全貌が少しずつ明らかになってきた。
開催に先駆けて大がかりなプログラムが行われたのは2月。毎年200万人以上が訪れる「さっぽろ雪まつり」の会場だ。「スタディスト」という独自の肩書きを持ち、観客参加型の劇作品《正しい数の数え方》で第19回文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門大賞を受賞した岸野雄一が芸術監督となり、高さ12メートルにもなる大雪像「トット商店街」がつくられた。中央には巨大テレビ画面があり、その上には天女になった黒柳徹子がかたちづくられている。雪まつりの大雪像と言えば、歴史的建造物や映画のキャラクターがモチーフになることで知られるが、そんななかでこの像は、ひときわ異彩を放っていた。
この雪像の真価が発揮されるのはなんといっても、期間中、毎夜4回行われたパフォーマンスだ。「雪まつりにご来場のみなさん、トット商店街へようこそ」という黒柳徹子のナレーションで始まるのは音楽影絵劇。巨大テレビに日本の四季とそこに暮らす農夫の姿がプロジェクションされる。アニメーションと岸野らが手元で操る影絵で展開する物語に、岸野扮する農夫と、これまでも彼と舞台をともにしてきた犬のジョンが登場すると、テレビ画面には実写や生中継など、様々な映像が挿入されていく。
12分と短いパフォーマンスだが、そこには複数のコンセプトを盛り込んでいると言う岸野。背景にあるのは、メディア史への興味。影絵という原初的な表現に映像技術を取り入れ、メディアの進化の過程をパフォーマンスに織り込んだ。そして、テレビ放映が始まったばかりの頃、街頭に人々が集まりテレビを見ていた時代を舞台にしたい、という考えにもとづき、巨大テレビとテレビの歴史を体現している女優・黒柳徹子(トットちゃん)を登場させた。
影絵や実写、アニメーションなどの映像と、パフォーマンスや音楽が融合した「トット商店街」は、芸術祭のことを詳しく知らない観光客や市民、子どもたちも楽しめる内容だった。観客たちはおそらく、「アート」を見たというよりはいつもの雪まつりとは一風異なる「ショー」を見た、という感覚だったに違いない。アートかアートでないか、という論点を越えたこの感覚こそ、大友が芸術祭で伝えたいもののひとつなのではないだろうか。
「震災後、わたしが取り組んできた活動の中でも、とりわけ大きな比重を占めてきたのが、これまでにない新しい『祭り』の創出でした。(中略)参加する前と後とで世界の見え方が一変するくらいの、そんな強烈な場を自分たちの手で作り出すことが、わたしの考える『祭り』です」(SIAF2017開催概要より)
そう大友が語るように、この芸術祭では、普段の札幌の街が一変するような場がそこかしこに現れるという。美術館だけでなく、すすきのや狸小路といった繁華街での展示やイベントも計画されているようで、実際に行って体験しなければわからない、そんなライブ感あふれる芸術祭となりそうだ。