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天才彫刻家・ロダンの愛と苦悩の半生。映画『ロダン カミーユと永遠のアトリエ』

「考える人」「地獄の門」などの作品で知られ、今年11月で没後100年を迎えるオーギュスト・ロダン。その半生をパリのロダン美術館全面協力のもと映像化した映画『ロダン カミーユと永遠のアトリエ』が11月11日より公開される。

文=横山由季子(国立新美術館 アソシエイトフェロー)

映画『ロダン カミーユと永遠のアトリエ』より © Les Films du Lendemain / Shanna Besson

「近代彫刻」を背負った男の苦悩

 パリに留学していた10年ほど前、モンパルナス大通りをフラフラと歩いていると思いがけずロダンの《バルザック》像に遭遇し、その威容にしばし見入った記憶がある。調べてみると、円熟期のロダンが7年もの歳月を費やした力作であるにもかかわらず、発表時はサロンと世間に酷評され、現在の場所で日の目を見るまでじつに40年以上を要したという。

 ロダン没後100年を記念して制作されたジャック・ドワイヨン監督の映画は、彫刻家がまさに《バルザック》像に挑んでいた時期に焦点を当てたものである。弟子にして恋人であったカミーユ・クローデルの劇的な生涯は1988年と2013年に、それぞれイザベル・アジャーニとジュリエット・ビノシュ主演で映画化されているが、じつはロダンその人が主人公となる映画はこれが初である。

映画『ロダン カミーユと永遠のアトリエ』より © Les Films du Lendemain / Shanna Besson

 1840年に生まれ、60年代からサロンに挑戦するようになったロダンは、印象派の画家たちと同世代に属する。彼らはみな、サロンの審査で幾度も落選の憂き目を見た点で共通していた。映画の中盤に印象的な場面がある。批評家ミルボーの仲介でロダン、モネ、セザンヌが顔を合わせたとき、落選が続き不安定なセザンヌに対してロダンがこう忠告する。「人の意見など聞かずつくり続けろ。美は作業の中に宿るものだ」。この言葉は、のちに「近代絵画の父」と呼ばれるようになる男を突き動かす。

映画『ロダン カミーユと永遠のアトリエ』より © Les Films du Lendemain / Shanna Besson

 そしてロダンもまた、周囲の無理解に繊細に傷つきながらも、制作の手を止めることはなかった。大理石や粘土の塊に、いかにして生命を宿すことができるのか。正解のない問いに身を投じるその姿は、バルザックの小説『知られざる傑作』において、絵画に生命を与えようと欲して破滅した画家フレンホーフェルにも重なる。当時の批評家や大衆の価値判断の基準であったアカデミスムに反旗を翻した近代の芸術家は、自身の表現に、自ら審判を下す必要があった。ロダンの苦悩の根源は、芸術としての作品の優劣にあるのではない。その手で生み出したものが芸術か、さもなければ無かという極限の葛藤にあるのだ。

 (『美術手帖』2017年9月号「INFORMATION」より)

編集部

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