芸術祭に行く前に!
2016→2017の動向を考える

北は札幌から南は鹿児島まで、今年も数多くの芸術祭・国際展が開催される。そこで、2016年の芸術祭・国際展を基本データ含めて振り返り、その傾向を考えるとともに、2017年のラインナップを紹介する。

文=小林沙友里

目 Elemental Detection 2016 撮影=忽那光一郎, Arecibo Ⓒさいたまトリエンナーレ実行委員会

2016年の芸術祭・国際展を振り返る

まずは2016年に多数開催された芸術祭・国際展のなかから、筆者の評価順に10件を紹介。その概要とともに振り返ってみたい。

※来場者数は主催者発表。集計方法はそれぞれの芸術祭で異なる。

目 In Beppu

会期:11月5日~12月2日(31日間)

会場:別府市役所

主催:別府現代芸術フェスティバル「混浴温泉世界」実行委員会(後援:別府市、大分県ほか)

総合プロデューサー:山出淳也

参加アーティスト:目

来場者数:1200人

実施回数:1回目

 日本随一の温泉観光地、大分県別府市で行われた「In Beppu」。2009年、2012年、2015年に開催した『混浴温泉世界』の後継企画として始まった個展形式の芸術祭で、第1回目のアーティストとして白羽の矢が立ったのは、「目」。不確かな世界を確かめる体験を促すために環境を一変させるアートユニットだ。

 市役所を舞台にしたインスタレーション《奥行きの近く》は、ツアー形式で鑑賞するもの。案内人に導かれ、納税窓口の前を通って階段を上り、市長応接室なる絨毯張りの部屋に通されしばらく滞在した後、ふたたび窓口前を通って終了する40分ほどのツアー。案内人はどれが作品なのか教えてくれない。たとえば、1階の窓口の向こうの窓の外、また3階の市長応接室の窓の外には白いもやのなかに光る球体が。圧倒的な現実の向こうに圧倒的な抽象空間をつくり出すことで、目の前にあるものと背景にあるものとの距離感を揺るがせた。

撮影=久保貴史 ©️別府現代芸術フェスティバル『混浴温泉世界』実行委員会

 ツアーは1日数回。休日の照明が落ちて人の気配がないなかでも実施された。この『In Beppu』について山出淳也プロデューサーは「10年は継続したい」とのこと。同時期に開催した市民文化祭「ベップ・アート・マンス 2016」では、複数のアーティストが居住しながら作品制作をおこなう清島アパートのアトリエ公開のほか、さまざまなイベントが行われた。これらと、温泉観光地としての魅力を伝える親切なマップづくりなども功を奏し、全国のコアなアートファンや地元の人々を呼び寄せることに成功した。

市長応接室には名産品の竹細工などに混じってそれらしきオブジェも

カオス*ラウンジ新芸術祭2016 市街劇「地獄の門」

会期:9月17日〜10月10日 ※土日祝日のみ(11日間)

会場:もりたか屋、平廿三夜尊堂など福島県いわき市平地区

主催:合同会社カオスラ

キュレーション、演出:黒瀬陽平

参加アーティスト:KOURYOUとサイト制作チーム、山内祥太、岸井大輔、X会とパープルーム、藤城嘘、中島晴矢、酒井貴史、サエボーグ、梅沢和木など(17組)

来場者数:200〜300人

実施回数:2回目

 福島県いわき市で開催された『カオス*ラウンジ新芸術祭2016 市街劇「地獄の門」』。「市街劇」とは1970年代に寺山修司が考案したもので、キュレーターの黒瀬陽平がそれをオマージュし、いわき市平地区の複数会場を地図を片手に巡回させる展覧会を「演出」して観客の体験を劇化している。昨年の「怒りの日」の続編となった今回のテーマは、近現代(美術)史の「語り直し」。

 起点となるもりたか屋で観客を待ち受けていたのは、井田大介《photo sculpture 地獄の門》。ネット上にあるロダンの《地獄の門》の写真から3Dデータを作成し、3Dプリンターで複製した門から、ありえたかもしれない歴史がはじまる。2階では現代美術家集団「パープルーム」が、大正時代にこの地域で活動した前衛美術集団「X会」を自らに憑依させたインスタレーションにより、日本前衛美術史を語り直す試みを行った。3階ではKOURYOUとサイト制作チームによるウェブサイト作品《キツネ事件簿》(http://iwakitsune.com/)が、そのトップページに使用された原画とともに濃密な存在感を放っていた。いわきに残るさまざまな伝説をリサーチし、絵にしてマッピング。クリックすると物語のなかに入り込み、「異間」「現実」「時間」という3つのレイヤーを行き来することになる。

 また、劇作家の岸井大輔は、いわきに残る独特の浦島伝説「龍燈伝説」を東日本大震災後の物語として読み替え、お経の体をなした戯曲《龍燈祭文》を制作。市内の小名浜地区で同時開催された『市街劇「小名浜竜宮』をも包括する新たな伝説をつくり上げた。

山内祥太は某ゲームアプリを参照し、いわきの町を素材にした新作を喫茶ブルボンで発表
菩提院の展示。奥は岸井大輔《龍燈祭文》、手前は井戸博章《七つ龍》

さいたまトリエンナーレ2016

会期:9月24日〜12月11日(79日間)

会場:与野本町駅~大宮駅周辺、武蔵浦和駅~中浦和駅周辺、岩槻駅周辺

主催:さいたまトリエンナーレ実行委員会(さいたま市ほか)

ディレクター:芹沢高志

参加アーティスト:目、ユン・ハンソル、髙田安規子・政子、松田正隆+遠藤幹大+三上亮、岡田利規、ダンカン・スピークマン+サラ・アンダーソン、小沢剛、川埜龍三、オクイ・ララ、アピチャッポン・ウィーラセタクン、西尾美也、野口里佳、鈴木桃子、向井山朋子、新しい骨董、ウィスット・ポンニミット、大友良英+Asian Music Network、日比野克彦、チェ・ジョンファら34組

目的:芸術文化振興、人材育成、地域活性化

来場者数:36万1127人(連携プロジェクト、市民プロジェクトを含め)

実施回数:1回目

 こちらも初開催となった「さいたまトリエンナーレ2016」。東京のベッドタウンであるさいたま市は縄文時代から人が暮らし、現在も人口が増え続け127万人を超える。芸術祭というと廃校や廃屋を使用することが多いが、ここでは空いたまま放置されている場所が少なく、会場探しに苦労したとか。入場は無料。前年に実施された地域研究「さいたまスタディーズ」で導き出されたキーワードは「生活都市」。特にこれといった特徴がないがゆえにすべての人に共通する「生活」を再考する格好の場となった。

 「目」は旧埼玉県立民俗文化センターの屋外に、池を囲む森のような風景を出現させた。水面のように見える板の上を歩き、風景のなかに入り込む体験によって、「要素の感知」が引き起こされるという作品。また、韓国出身の劇作家・演出家、ユン・ハンソルはアーバンパークライン(野田線)の列車を貸し切って移動型演劇を敢行。車内外で通過エリアの歴史を参照したパフォーマンスが行われた。

ユン・ハンソルの《サイタマ・フロンテージ》上演中の車内

瀬戸内国際芸術祭2016

会期:春=3月20日〜4月17日、夏=7月18日〜9月4日、秋=10月8日〜11月6日(108日間)

会場:直島、豊島、女木島、男木島、小豆島、大島、犬島、沙弥島(春のみ)、本島(秋のみ)、高見島(秋のみ)、粟島(秋のみ)、伊吹島(秋のみ)、高松港・宇野港周辺

主催:瀬戸内国際芸術祭実行委員会(会長:浜田恵造 香川県知事)

総合プロデューサー:福武總一郎

総合ディレクター:北川フラム

参加アーティスト:クリスチャン・ボルタンスキー、カオス*ラウンジ、スプツニ子!、アンリ・サラ、大竹伸朗、目、飯山由貴、大岩オスカール、ジュリアン・オピー、Nadegata Instant Party、丹羽良徳、ままごと×スイッチ総研、山川冬樹、ダミアン・ジャレ×名和晃平、昭和40年会、小林耕平、山下拓也、岡田利規×森山未來、坂本大三郎、EAT&ART TARO、スマイルズら226組

来場者数:104万50人(3期合計)

実施回数:3回目

 言わずと知れた日本最大規模の国際芸術祭。初回から累積した作品を含めると参加作家数は226組。会期は春・夏・秋に分かれ、来場者数は100万人を超えている。テーマは「海の復権」。瀬戸内の島々に活力を取り戻し、瀬戸内海がすべての地球の「希望の海」となることを目指すという壮大なもの。

 豊島の唐櫃浜にある《心臓音のアーカイブ》で知られるクリスチャン・ボルタンスキーは秋に豊島の唐櫃岡で新作《ささやきの森》を公開した。島キッチンのあたりから数十分坂を登ったあたりにある森では400個の風鈴が風になびき、それぞれの音を奏でている。無名の個人を記憶に留め、人間存在の強さや儚さを表現する作品で、先着400名は風鈴の短冊に大切な人の名前を記して残すことができた。

 また、女木島で鬼ヶ島伝説をモチーフにしたカオス*ラウンジは、黒瀬陽平がキュレーション、会場構成、演出を行い、「鬼の家」と題して洞窟、記念館、家の3会場で作品を展示。古代から現代にかけての「鬼」=「他者」というイメージをもとに、オブジェや立体、映像などを点在させた。

森を舞台にしたクリスチャン・ボルタンスキー《ささやきの森》
カオス*ラウンジ「鬼の家」では古民家で梅沢和木、梅田裕、梅津庸一、たかくらかずきが展示を行った

あいちトリエンナーレ2016

会期:8月11日〜10月23日(74日間)

会場:愛知芸術文化センター、名古屋市美術館など愛知県名古屋市、岡崎市、豊橋市内各所

主催:あいちトリエンナーレ実行委員会(会長:大村秀章 愛知県知事)

芸術監督:港千尋 

参加アーティスト:ラウラ・リマ、シュレヤス・カルレ、山城知佳子、ソン・サンヒ、二藤建人、久門剛史、小林耕平、竹川宣彰、アローラ&カルサディーラ、野村在、菅野創+やんツー、石田尚志、大巻伸嗣、三田村光土里、横田大輔、小山泰介+名和晃平、赤石隆明、寺田就子、西尾美也+403architecture [dajiba]、ダニ・リマ、ミヤギフトシ、大木裕之、白川昌生、今村文、佐藤翠、青木涼子、L PACK.ら119組

来場者数:60万1635人

実施回数:3回目

 港千尋が芸術監督となった今回のテーマは「虹のキャラヴァンサライ 創造する人間の旅」。キュレーターにブラジル拠点のダニエラ・カストロとトルコ拠点のゼイネップ・オズを招聘し、非欧米圏中心的な芸術祭となった(アーティストは日本を含め計38の国と地域から参加)。予算額は約10億円と瀬戸内国際芸術祭を大きく上回った。

ラウラ・リマ《フーガ》の展示風景

 新しく会場として加わった、豊橋の用水路を埋めて建てた水上ビルでは、動物愛護の点でも物議を醸したブラジルのラウラ・リマによる《フーガ》が強烈な体験に。もともと人が住んでいたビルの空間全体を大きな鳥カゴのようにして小鳥を100羽放ち、その中に人が入っていく、という生体展示。

 また、かつて城下町として栄えた岡崎では駅ビルの二藤建人もさることながら、岡崎表屋のシュレヤス・カルレ《帰ってきた、帰ってきた:横のドアから入って》が強い印象を残した。片付けられずに散らかっていたものもを「ファウンドオブジェクト」として用い、繊細に暗示的に配置させた。どこからどこまでが作品なのかを問うようなものが集まった、アンチ・ミュージアム的空間が展開された。

 名古屋市の繁華街にある旧明治屋栄ビルでは、沖縄を拠点に活動する山城知佳子の《土の人》が圧倒的な存在感を放っていた。三面のスクリーンに映し出されたのは沖縄の伊江島と沖縄と類似点のある韓国の済州島で撮影されたという映像。地面に横たわり落下物を甘受する人々、花火か銃撃戦か区別のつかない閃光と爆音、それがクラブのダンスフロアにつながる様子、満開の百合畑で無数の人の手拍子が鳴り響くシーンに、死と生、虐殺、襲撃、アメリカの存在などさまざまなイメージが絶えず去来した。

山城知佳子《土の人》の展示風景

岡山芸術交流2016

会期:10月9日~11月27日(44日間)

会場:旧後楽館天神校舎跡地、林原美術館、岡山城、岡山県天神山文化プラザほか岡山県岡山市内各所

主催:岡山芸術交流実行委員会

総合プロデューサー:石川康晴 

総合ディレクター:那須太郎

アーティスティック・ディレクター:リアム・ギリック

参加アーティスト:荒木悠、眞島竜男、ピエール・ユイグ、島袋道浩、リクリット・ティラヴァーニャ、サイモン・フジワラ、下道基行、レイチェル・ローズ、キャメロン・ローランド、ライアン・ガンダー、フィリップ・パレーノ、ペーター・フィッシュリ ダヴィッド・ヴァイス、ドミニク・ゴンザレス=フォースターら31組

来場者数:23万4080人

実施回数:1回目

 初開催の「岡山芸術交流2016」のテーマは「開発」。ストライプインターナショナルと石川文化振興財団を率いる岡山出身のコレクター・石川康晴が総合プロデューサー、同郷のギャラリスト那須太郎が総合ディレクターとなり、アーティスティック・ディレクターにイギリス人アーティストのリアム・ギリックを招いて実現した。「地域振興を目的に全国各地で開催されている芸術祭に対して一石を投じるために、世界の最先端の良質なコンテンポラリーアートを提供する」ということでハードコアなコンセプチュアル作品が歩いて回れる範囲に点在。わかりやすさやとっつきやすさはあまりないが、じっくり鑑賞すると価値観が揺さぶられるような芸術体験ができるハイレベルな作品が集い、1960年代から現在まで、コンセプチュアル・アートの動向を観ることができるものとなった。「芸術祭」という言葉は意識的に用いていない。

 国際的アートシーンの文脈で構成された全体のなかで、日本人作家も強い存在感を放っていた。倉敷出身の祖父をもつ荒木悠は、岡山県の特産品である干しダコの風習と「ヒレ、ウロコなきもの これを食すべからず」という旧約聖書に書かれたタブーとを結びつけ、まことしやかに創作したドキュメンタリー風の映像作品とインスタレーション《WRONG REVISION》を展開。

荒木悠《WRONG REVISION》の展示風景

 眞島竜男は岡山の桃太郎伝説をテーマに《281》を発表。岡山駅前にある桃太郎像と1962年の岡山国体のときに制作されたトーテムポールとの関係を粘土で造形しながら、伝説の推移を語るという映像作品。そこに登場した彫刻や桃太郎像なども展示された。どちらも土地の文化をそれぞれの目線で掘り起こし、そこから大きく飛躍する発想と構成力によって、新たな解釈の愉快さを示すとともに、既存の文脈の信憑性を問うていたといえる。

眞島竜男《281》の展示風景

KENPOKU ART 2016 茨城県北芸術祭

会期:9月17日~11月20日(65日間)

会場:茨城県北地域6市町(日立市、高萩市、北茨城市、常陸太田市、常陸大宮市、大子町)

主催:茨城県北芸術祭実行委員会(会長:橋本昌茨城県知事)

ディレクター:南條史生 

参加アーティスト:飴屋法水、和田永、落合陽一、米谷健+ジュリア、中崎透、石田尚志、北澤潤、やくしまるえつこ、magma、AKI INOMATA、内海聖史、ジョン・ヘリョン、BCL、オロン&イオナ&マイク、力石咲、津田翔平、藤浩志、須田悦弘、日比野克彦、妹島和世、チームラボ、ラファエル・ローゼンダール、イリヤ&エミリア・カバコフ、チェ・ジョンファ、ダニエル・ビュレンら85組

来場者数:約77万6000人

実施回数:1回目

 初開催となった「茨城県北芸術祭」。森美術館館長の南條史生をディレクターに迎えた今回のテーマは「海か、山か、芸術か?」。茨城県北地域6市町という広大なエリアを海側と山側に大きく二分して設計された。来場者数は目標30万人に対し倍以上の約77万6000人。和田永、落合陽一、チームラボらによるメディア・アートやBCL、オロン&イオナ&マイクらによるバイオアートなど先端技術を用いた作品も際立っていた。

 演出家、劇作家の飴屋法水が手がけたのは7つの物語からなる《何処からの手紙》。茨城県北に実在する4つの郵便局にハガキを送ると、それぞれの場所から封書が届く。そこには物語が書かれた手紙、地図、目的地のものらしき写真を印刷した絵葉書が同封され、それを手にある風景に出合うというもの。東日本大震災の被災地でありながら、東北ではないからとないがしろにされてきた場の声を聞き、観客を導いた。

飴屋法水《何処からの手紙》の「自分を枯らす木」

富士の山ビエンナーレ2016

会期:10月28日〜11月27日(31日間)

会場:大法寺(静岡市清水区・由比エリア)、旧五十嵐邸、旧蒲原劇場(静岡市清水区・蒲原エリア)、小休み本陣常盤家、フジノヤマ・カフェ(富士市・富士川エリア)、イケダビル、旧加藤酒店(富士市・富士本町エリア)、倭文神社(富士宮市・富士宮エリア)ほか

主催:富士の山ビエンナーレ実行委員会

共催:静岡県

ディレクター:小澤慶介

参加アーティスト:和田昌宏、岩崎貴宏、清水玲、佐々木かなえ、井田大介、鈴木基真、大久保あり、中村太一、ペピン結構設計、原倫太郎、須藤美沙、ナマイザワクリス、佐藤香、川崎誠二、小林正樹ら19組

来場者数:2万3167人

実施回数:2回目

 ディレクターにキュレーターの小澤慶介を迎え、市境を超えた地域の魅力の再発見を目的に、「時の響き合いから今を考える」というテーマで開催された「富士の山ビエンナーレ2016」。入場無料。車があれば都内から日帰りで見て回ることができる。

 和田昌宏は閉館した映画館でインスタレーション《A Song For My Son(蒲原)》を発表。富士川流域の山林で切り出した間伐材を薪にしてストーブにくべ続けると、やかんの沸騰音がピーッと鳴り続ける。他方、今年ヴェネチア・ビエンナーレへの参加でも注目される岩崎貴宏は、旧五十嵐歯科医院で山型のハブラシを使い、この周辺で見られる鉄塔を模した彫刻《アウト・オブ・ディスオーダー(藪)》などを制作。近代産業やエネルギーの問題を彷彿とさせた。

岩崎貴宏《アウト・オブ・ディスオーダー(藪)》の展示風景

六甲ミーツ・アート 芸術散歩2016

会期:9月14日~11月23日(70日間)

会場:六甲ガーデンテラス、六甲山カンツリーハウス、六甲高山植物園、六甲オルゴールミュージアム、グランドホテル 六甲スカイヴィラほか兵庫県 六甲山の10カ所

主催:六甲山観光株式会社、阪神電気鉄道株式会社

ディレクター:坂本浩章(彫刻の森芸術文化財団)

参加アーティスト:さわひらき、八木良太、岡本光博、飯川雄大、曽谷朝絵、トーチカ、三宅信太郎、開発好明、山本桂輔、菅沼朋香、髙橋匡太、三沢厚彦など39組

目的:六甲山の自然やレジャー施設など様々な魅力の再発見

テーマ:なし

来場者数:1万4188人(鑑賞チケットの販売数)

実施回数:7回目

 「六甲ミーツ・アート 芸術散歩2016」は、明治時代にレジャーの地として開発されて以来、美しい景観が守られてきた六甲山で観光会社と鉄道会社が2010年から毎年開催しているもの。緑があり丘があり池があり、植物園やミュージアムもある豊かな場所でコンセプチュアルでありながら親しみやすさのある作品がセンスよく選ばれている。新神戸駅からなら電車、バス、ケーブルカーを乗り継いで1時間弱で到着する六甲山上から巡回バスが出ている。

 冬はスキー場となる六甲山カンツリーハウスではさわひらきが映像インスタレーション《Locker room》を展示。少年時代の家族の行事が記録された映像をもとに、止まった時間をトレースした新作も発表した。

さわひらき《Locker room》の展示風景

みちのおくの芸術祭 山形ビエンナーレ2016

会期:9月3日〜9月25日(23日間)

会場:郷土館「文翔館」、とんがりビル、観光文化交流センター「山形まなび館」、東北芸術工科大学など山形県山形市内15カ所

主催:東北芸術工科大学(後援は山形県、山形市ほか)

総合プロデューサー:根岸吉太郎 

芸術監督:荒井良二

プログラムディレクター:宮本武典 

参加アーティスト:坂本大三郎、平澤まりこ、スガノサカエ、spoken words project、ソケリッサ!、寺尾紗穂、大原大次郎、中山晴奈、鈴木ヒラク、吉増剛造、水野健一郎、三瀬夏之介、森岡督行、荒井良二、いしいしんじ、石巻工房、ナカムラクニオなど45組

来場者数:6万627人

実施回数:2回目

 東北芸術工科大学が主催し2回目を数える「山形ビエンナーレ2016」のテーマは「山は語る」。震災を経て、自然への畏怖や信仰が呼び起こされている東北にあって、山形は修験道の本場であり、その自然観やコミュニティのあり方には見習うべきものがある。山形出身の絵本作家・荒井良二が芸術監督を務めているためか、祝祭性、物語性が強く感じられた。入場は原則無料。

 イラストレーターの平澤まりこが企画した「山伏 坂本大三郎さんといく湯殿山ツアー:土地の記憶をめぐる〜縄文から山伏まで」では、出羽三山のひとつである湯殿山で沢登りをして奥の院に参詣する「御沢駆け」を体験。途中途中で祀られている御沢仏を拝みながら山岳信仰の足跡をたどった。

魚市場で働きながら制作をし続けたスガノサカエの絵

2016年の傾向

 さて、ここまで2016年に行われた10の芸術祭を振り返ってきたが、それらから見える傾向はどんなものだろうか。

 まず大きな流れとしてあるのは、「芸術としての質を問い直す」こと。作品が地域活性化の道具に成り下がっていないかと疑問視されるようになって久しいが、この問い直しは近年地域アートプロジェクトの目的の一部とされるほど顕著だ。そのなかで、「特化する」という動きがある。『In Beppu』は1組のアーティストに絞って個展形式にし、『岡山芸術交流』はコンセプチュアルな作品を中心に構成した。体験の質を高めるという考え方で、ともするとリスキーだがインパクトは強い。

 「地域性を必ずしも最重要視しない」という向きもある。アーティスト側から見ても、ある地域で行う以上、その地域性は無視できないし、それは発想の源や素材になり得る。しかし、場などの条件が常に先行してしまうと創造性が損なわれかねない。多くの芸術祭がそうだが、自治体主導で市民の税金が投入される場合も、「この問題には触れてないでほしい」「物議を醸しそうな作品は外してほしい」などと言いながら行政にとって都合のいいだけの地域性をキュレーターやアーティストに押し付けているかぎりは、結果として本当に市民のためになる、普遍的な人間の営みに寄与する作品は生まれにくい。『カオス*ラウンジ新芸術祭』は「理想とする芸術を実現したいからそこでやる」という順序で場を選んでいる。

2017年のラインナップ

 そして2017年。今年も新しい芸術祭が主要なものだけでも「北アルプス国際芸術祭2017」「Reborn-Art Festival」「種子島宇宙芸術祭」「奥能登国際芸術祭2017」と4つある。うち3つに、「越後妻有アートトリエンナーレ」でも知られるプロデューサー・北川フラムが関わっており、それぞれどうなるのか楽しみだ。

 参加アーティストが未定のものもあるが、注目したいアーティストを挙げるとすれば引き続き、目とカオス*ラウンジ。両者とも複数の芸術祭に登場する予定だ。以下、主なものを開催日が早い順にリストアップする。

いちはらアート×ミックス2017

会期:4月8日〜5月14日

会場:千葉県市原市南部地域、IAAES(旧里見小学校)、月出工舎(旧月出小学校)、内田未来楽校(旧内田小学校)、市原湖畔美術館など

実施回数:2回目

参加アーティスト:木村崇人、開発好明、クワクボリョウタ、風景と食設計室 ホー、鈴木ヒラクなど

北アルプス国際芸術祭2017~信濃大町 食とアートの廻廊~

会期:2017年6月4日~7月30日

会場:長野県大町市全域

実施回数:1回目

参加アーティスト:目、川俣正、大岩オスカール、栗林隆、山本基、ジェームズ・タップスコットなど

 総合ディレクターは北川フラム。北アルプス山脈の麓に位置し、古くから塩の道千国街道の宿場町として栄えた長野県大町市を舞台に、土地固有の生活文化を表現する「食」と、地域の魅力を再発見する「アート」の力で、地域資源の世界発信を目指す。

牛窓・亜細亜藝術交流祭 Ushimado Asia Triennale 2017

会期:7月20日〜8月31日

会場:岡山県瀬戸内市牛窓地域

実施回数:2回目

参加アーティスト:未定

 1984年から9回にわたり開催された「JAPAN牛窓国際芸術祭」や、1985年の「牛窓国際ビエンナーレ」の流れを汲み、2014年に復活して2回目となる。総合ディレクターは岡山出身の美術批評家、キュレーターである花房太一。

Reborn-Art Festival

会期:7月22日~9月10日

会場:宮城県 牡鹿半島・石巻市内中心部・松島湾(石巻市、塩竈市、東松島市、松島町、女川町)

実施回数:1回目

参加アーティスト:目、カオス*ラウンジ、Chim↑Pom、JR、金氏徹平、パルコキノシタ、コンタクトゴンゾ、名和晃平、青木陵子+伊藤存、カールステン・ニコライ、ナム・ジュン・パイク、フィリップ・パレーノ、マーク・クイン、齋藤陽道、さわひらき、島袋道浩、ルドルフ・シュタイナー、鈴木康広、宮島達男など

 Reborn-Art Festival実行委員会と、ap bank fesを運営する一般社団法人APバンクの共同主催。企画構成や参加アーティストの選定などは、思想家・人類学者の中沢新一、ワタリウム美術館の和多利浩一/恵津子と小林武史でクリエイティブディレクションユニットを組織して行い、芸術・食・音楽の「総合祭」を計画。2016年夏に行われたプレイベントは全体としては音楽中心でありながら、パルコキノシタとギャレス・ムーアがワークショップを実施。さわひらき、宮島達男、鈴木康広、JRらが展示を行った。

ヨコハマトリエンナーレ2017 島と星座とガラパゴス

会期:8月4日~11月5日

会場:横浜美術館、横浜赤レンガ倉庫1号館

実施回数:6回目

参加アーティスト:アイ・ウェイウェイ、マウリツィオ・カテラン、オラファー・エリアソン、ジェニー・ホルツァー、カールステン・ヘラーとトビアス・レーベルガーとアンリ・サラとリクリット・ティラバーニャのユニット、小沢剛、宇治野宗輝、畠山直哉、風間サチコなど40組

 スプツニ子!、リクリット・ティラバーニャ、鷲田清一、養老孟司らを「構想会議」メンバーとして迎えた。象の鼻テラスで行われる関連展「ヨコハマ・パラトリエンナーレ」には前回に引き続き、目、真鍋大度らが参加予定。

札幌国際芸術祭2017 芸術祭ってなんだ?

会期:8月6日~10月1日

会場:札幌芸術の森、モエレ沼公園、まちなかエリア、札幌資料館、札幌大通地下ギャラリー 500m美術館など

実施回数:2回目

参加アーティスト:EYヨ、堀尾寛太、マレウレウ、毛利悠子、中崎透、大友良英+青山泰知+伊藤隆之、梅田哲也、石川直樹、岸野雄一、クワクボリョウタ、さわひらき、テニスコーツ、宇川直宏など

 

 ゲスト・ディレクターは音楽家の大友良英。市民とともにつくりあげる芸術祭を目指す。

種子島宇宙芸術祭 自然と科学と芸術の融合

会期:8月5日〜11月12日

会場:鹿児島県 種子島島内

実施回数:1回目

参加アーティスト:椿昇、開発好明、河口洋一郎、木村崇人、佐竹宏樹など

 JAXAの「種子島宇宙センター」がある鹿児島県・種子島で宇宙をテーマにスタート。総合ディレクターは森脇裕之。

奥能登国際芸術祭2017 最涯の日本、最涯の芸術祭

会期:9月3日~10月22日

会場:石川県珠洲市全域

実施回数:1回目

参加アーティスト:石川直樹、岩崎貴宏、鴻池朋子、塩田千春、ひびのこずえなど 

 総合ディレクターは北川フラム。能登半島の最北端に位置する珠洲の土地に眠るポテンシャルを掘り起し“さいはて”から“最先端”の文化を創造する試みとして開催。

中之条ビエンナーレ2017

会期:9月9日〜10月9日

会場:群馬県中之条町 町内各所

実施回数:6回目

参加アーティスト:未定 

 四万温泉などの温泉街を擁するエリアで開催。アーティスト主導型。

六甲ミーツ・アート 芸術散歩2017

会期:9月9日~11月23日

会場:六甲ガーデンテラス、六甲山カンツリーハウスほか兵庫県 六甲山の10カ所

実施回数:8回目

参加アーティスト:未定

カオス*ラウンジ新芸術祭2017

会期:10月初旬〜予定

会場:福島県いわき市泉町

実施回数:3回目

参加アーティスト:未定

 場所を変え、廃仏毀釈をテーマに開催予定。

In Beppu

会期:秋予定

会場:大分県別府市

実施回数:2回目

参加アーティスト:未定

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