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2017.4.8

都心から一番近い里山でアートを楽しむ。「いちはらアート×ミックス2017」開幕

千葉県のほぼ中央に位置する市原市。ここを舞台に開催される芸術祭「いちはらアート×ミックス」が2回目の開催を迎えた。前回の2014年に続き、舞台となるのはのどかな里山。31組のアーティスが参加した今回の見どころの一部を紹介する。

各会場を結ぶ小湊鐵道
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 「いちはらアート×ミックス2017」の舞台となるのは、東京や横浜などの首都圏からほど近い千葉県中央部の市原市。首都圏のベッドタウンとして人口28万人を要する街でありながら、南部には里山や、豊かな自然が広がっている。しかしながら、少子化の波はこの街にも押し寄せており、「いちはらアート×ミックス」は、そんな地域の活性化を目指して行われている。

 会場は「上総牛久・内田」「高滝」「里見・飯給」「月出」「月崎」「白鳥」「養老渓谷」の7エリアで構成。今年開業100周年を迎えるローカル線・小湊鐵道線が各エリアを結んでおり、2日あれば全作品を鑑賞することも可能だ。

 今回は、7つのエリアのなかから「上総牛久・内田」「高滝」「里見・飯給」の3つを抜粋して紹介する。

上総牛久・内田エリア

内田未来楽校

 「いちはらアート×ミックス2017」の起点となるのがこの上総牛久・内田エリア。市内に唯一現存する旧小学校の木造校舎を保存・活用した「内田未来楽校」では、「現実と理想」をテーマに、日用品などを手作業で植物やドレスなどに変貌させる作品を手がけるキジマ真紀が作品を展開する。

 《蝶々と内田のものがたり》と題されたインスタレーションで並ぶのは、再生の象徴とされる蝶。1000頭以上に及ぶ蝶々は、すべてが古布やキルトでつくられており、旧内田小学校の卒業生や家族、市内の中学生など、多くの人々によって生み出された。そこには、かつての小学校の賑わいを取り戻すような光景が広がっている。

高滝エリア

市原湖畔美術館

 市原のアートを象徴する「市原湖畔美術館」がある高滝エリア。美術館では、『からすのパンやさん』(偕成社)をはじめとする600点以上の絵本を生み出した作家・かこさとしが、「小湊鐵道100歳企画 里山絵本展」として、芸術祭エリアを結ぶ小湊鐵道沿線を舞台にした旅絵本『出発進行!里山トロッコ列車』の原画を展示。

 また屋外には、地域から出た廃材などを使用し、地元の人々とともにつくりあげたカラフルなマルシェも。クラフト作家などが参加し、湖畔に個性的な空間が展開されている。足湯などもあり、旅の疲れを癒すこともできる。 

 このほか同館では、常設作品としてKOSUGE1-16の《Heigh-Ho》(2013)や、クワクボリョウタの《Lost Windows》(2013)が楽しめるほか、連動企画展としてミュージシャン「アルヴァ・ノト」名義でも知られるアーティスト、カールステン・ニコライの国内最大規模個展「Parallax パララックス」も開催中。音と映像で構成された、日本初公開作品を含む6つの作品は見逃せない。

里見・飯給エリア

IAAES

 2013年に閉校した旧里見小学校をアートや農業の学びの場としてリノベーションしたIAAES(Ichihara Art / Athlete Etc. School)がこの地域のメイン会場だ。2フロアをフルに使ったIAAESでは12組のアーティストが作品を展示する。

 南条嘉毅、ジェームズ・ジャック、吉野祥太郎によるユニット「世界土協会」は、その名の通り「土」を素材としたレストランを小学校内にオープンさせた。日本各地の土がテーブルに並べられ、来場者はそれぞれの土の色や匂いを通じて、それぞれの場所に思いを馳せる。

 小学校には必ずある机。それを作品に変えたのが角文平だ。《養老山水図》と名づけられたインスタレーションでは、学校机を彫ることで、市原の地図を机上に立体的に出現させた。木屑は山のように積み上げられ、頂上には会場であるIAAESがポツンと佇む。都市と里山の対比が象徴的に表されている。

 校舎の一角に突如現れる、数々の名画と赤い絨毯とシャンデリアで飾られた豪華絢爛な空間。その名も《美術室》と名づけられた空間に飾られている絵画は、作家の豊福亮が学校長を務める千葉美術予備校の生徒たちが模写したものだ。古典的な絵画の模写は、昨今の受験絵画の傾向とは異質なものだが、想像力や技術を鍛えるための美術教育の一環として位置付ける作家の思いが込められている。

豊福亮《美術室》(2017年)の展示風景

 市原市内で撮影した夜の光が映し出されたモニターが点在する空間に、囁くような誰かの「子どもの頃の願いごと」が静かに響く。佐藤史治+原口寛子《星(近視と遠視)》では、地域の人々へのインタビューや小学校の文集から拾われた「誰かの願い」と、どこにでもあるけれどここにしかない市原の夜景が重なり合っている。

佐藤史治+原口寛子《星(近視と遠視)》の展示風景

 磯崎道佳が展開するのは、地域の歴史や産業に関するリサーチをもとに生まれた作品。市原市が日本一の数を有するゴルフ場を、近代化の象徴としてとらえ、その風景をそこに住む人々の顔をかたどった《ひかりのあな》を通して見せる。近代化の環境への影響に目を向けつつ、またたく小さな光を未来への希望に喩えた。

磯崎道佳《ひかりのあな》(2017年)は家庭で使用されたカーテンが素材に使われている

 なお、本芸術祭では市原の魅力を存分に味わう試みとして、多数の「地域プロジェクト」を展開。体験教室や、地元飲食店による食の提供、小学生の絵画展など、市原だけの体験を提供することで、「いちはらアート×ミックス」の特色を出すことを試みている。

 今や首都圏では珍しくなったレトロなローカル線に乗って、春の南総でアートに触れてみてはいかがだろうか。

月崎エリアにある木村崇人の《森ラジオ ステーション×森遊会》 撮影=中村脩