2月24日にロシアが開始したウクライナ侵攻。全世界がその行方を見守るなか、アート界からも侵攻に反対する声が上がり始めている。
世界最大のミュージアムネットワークである「ICOM(国際博物館会議)」は、ロシアによるウクライナの領土保全と主権の侵害を強く非難する声明を発表した。博物館の専門家が直面するリスクや文化遺産への脅威に関する懸念を表明しつつ、迅速な停戦、交戦国間の即時調停、博物館の職員の安全確保と文化遺産保護のための協調努力を要請。「このような紛争と不確実性の時代において、ICOMは、この不確実性がウクライナのICOM会員、博物館職員、文化遺産の安全と安心に与える影響についても深い懸念を表明しなければならない」と強調している。
また、世界各地の近現代美術館のネットワーク組織「CIMAM(国際美術館会議)」も声明文を発表。CIMAMのミュージアムウォッチ委員会は、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を「絶対的に非難する」としており、ウクライナとの連帯を表明。「ウクライナの同僚が、自分自身や家族、友人の安全を確保するだけでなく、彼らが責任を負うコレクションや施設の将来を守るという前例のない課題に直面しているため、積極的に支援を申し出る」としている。
ウクライナのアーティスト・キュレーターたちも声を上げている。今年のヴェネチア・ビエンナーレにウクライナ・パヴィリオンとして参加する予定の3人のキュレーター(マリア・ランコ、リザヴェータ・ジャーマン、ボリス・フィロネンコ)と、アーティストのパブロ・マコフは共同声明を発表。次のように訴えかけている。「銃は私たちの体を傷つけるかもしれませんが、文化は私たちの心を変えます。この戦争は文明の衝突です。自由で文明化された世界が、野蛮で攻撃的な世界によって攻撃されているのです。もし私たちがこの状況を受動的に観察し続けるなら、私たちが目指すもの、そして先人たちの遺産である芸術、愛、表現の自由、創造する能力をすべて失うことになるでしょう」。
また、旧ユーゴスラビア・ベオグラード生まれの世界的アーティスト、マリーナ・アブラモヴィッチは、Instagramを通じてメッセージを公開。ウクライナの人々への連帯を表明するとともに、「ウクライナへの攻撃は私たちすべてへの攻撃、人間性への攻撃であり、中止されなければならない」と呼びかけている。
いっぽう、ロシア国内からも侵攻に反対する声は上がっている。
ICOMのロシア支部はウクライナ侵攻を「非常に憂慮」する声明文を発表。歴史的・文化的遺産を保護する必要性を訴えつつ、「武力紛争の際の文化財の保護のための条約(1954年ハーグ条約)」の厳格な遵守を望むとしている。
ロシアを代表する美術館であるプーシキン美術館は、ICOMロシアの支持を表明。「博物館は、記憶と文化の施設として、平和的で相互に尊重し合う対話の機会をつくるために、私たちのためにあらゆる努力をするつもり」だとしており、「文化空間はそのための最適な場所だ」と訴えている。
ロシアの私設美術館・ガレージ現代美術館は、ウクライナ侵攻に反対するためにすべての展覧会の休止を発表。ステートメントのなかで「このような出来事が起こっているときに、正常であるという幻想を支持することはできない」としており、「分断を生み、孤立を生み出すようなあらゆる行為に断固として反対する」とウクライナ侵攻反対の姿勢を明確に示した。
サンクトペテルブルクにあるエルミタージュ美術館の分館「エルミタージュ・アムステルダム」はFacebookでウクライナ侵攻を強く非難するという声明文を発表。情勢を注視するとしている。
ロシアを拠点にするアクティビスト集団「プッシー・ライオット」も立ち上がった。プッシー・ライオットの創設メンバーであるナジェージダ・トロコンニコワは、Trippy LabsとPleasrDAOのメンバーとともに分散型自律組織「ウクライナDAO」をローンチ。ウクライナ国旗を使ったNFTを通じてウクライナ支援に対する寄付金を募っている。
今年開催される第59回ヴェネチア・ビエンナーレのロシア館においては、アーティストとキュレーターの不参加が決定。ロシア館の公式Instagramは、「ロシア館はアーティスト、アート、クリエイターのためのホームだ」であり、この3人の決定を支持すると表明。「ロシア館は閉ざされたままになるだろう」とされている。