タイムライン -時間に触れるためのいくつかの方法
現代美術の領域では、時間の経過やそれに伴う作品の変化に大きな関心が払われてきた。また、展覧会の記録/再現にも関心が集まっている。本書はこれらの関心を起点にした問いかけに対するひとつの実験的な応答だといえる。例えば、本書では作品の詳細な分析結果を示すことで、作品が「作品」以前に、物理的な「もの」として存在しているという当たり前であるがゆえに見落としがちな事実に注意を向けさせる。あるいは、搬入から搬出まで様子を子細に描くことで、作品が展示されているという事実にも再考を促す。本書を通して、ものと人との関係が新しく見えてくる。(岡)
『タイムライン-時間に触れるためのいくつかの方法』
「タイムライン-時間に触れるためのいくつかの方法」プロジェクトアーカイヴ制作チーム=編
this and that|2000円+税
崇高の分析論 カント『判断力批判』についての講義録
カントの三批判書のなかでも最後に位置づけられる『判断力批判』を題材にしたリオタールによる原稿をまとめた1冊。リオタールの崇高論は「崇高と前衛」などがすでに訳出されており、これらはバーネット・ニューマンらの具体的作品に触発されるかたちで展開する。これに対して、本書はカントの思考の内在的な論理を追いかけることに主眼をおき、三批判書だけではなく周辺のテキストも引きながら、その思索の持つ捻じれを明らかにしようとする。学術的な読者による精読にも堪えるよう、ドイツ語・フランス語・日本語にまたがる概念の翻訳・訳語の選択にも細かな配慮がなされている。(岡)
『崇高の分析論カント『判断力批判』についての講義録』
ジャン・フランソワ=リオタール=著、星野太=訳
法政大学出版局|3600円+税
古典主義再考Ⅱ 前衛美術と「古典」
大戦間期に起こった「秩序への回帰」の潮流が代表するように、20世紀前半の西欧では多くの芸術家たちが古典主義に接近した。近年、この古典回帰の現象についての研究が進んでおり、前衛/後衛の二項対立では割り切れない多面的な古典主義を検証する視座が求められている。プリミティヴィズムも含めた視点から古典主義を再考する河本真理論文、カルロ・カッラを論じる池野絢子論文など8本の論考を収録し、19世紀以降の文脈から古典主義と前衛美術の複雑に入り組む関係を考察。(中島)
『古典主義再考Ⅱ 前衛美術と「古典」』
木俣元一、松井裕美=編
中央公論美術出版|3500円+税
(『美術手帖』2021年4月号「BOOK」より)