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杉本博司のエッセイ集から「政治の展覧会」まで。『美術手帖』12月号新着ブックリスト(1)

新着のアート&カルチャー本の中から毎月、注目の図録やエッセイ、写真集など、様々な書籍を取り上げる、雑誌『美術手帖』の「BOOK」コーナー。「政治の展覧会」に本というかたちで取り組む1冊や、杉本博司によるエッセイ集など、注目の新刊を3冊ずつ2回にわたり紹介する。

評=中島水緒(美術批評)+岡俊一郎(美術史研究)

芸術の脱定義

 「アクション・ペインティング」の呼称の生みの親でもある美術評論家が1960~70年代の現代美術を批評した論考集。アメリカ美術の近代以降の展開や同時代の現代美術の脱美学的傾向をおさらいするほか、デュビュッフェ、ニューマン、ロスコ、ガストンらの作家論、展覧会評などを収録する。ローゼンバーグの批評は美術の状況を鋭く見据えつつ、社会的・政治的背景にも目配りを利かせ、芸術の役割を厳しく問うているかのようだ。戦後アメリカ美術を知るための必携の1冊。(中島)

ハロルド・ローゼンバーグ=著
桑田光平、桑名真吾=訳
水声社|3200円+税
 

政治の展覧会: 世界大戦と前衛芸術

 2008年より、展覧会、書籍など多岐にわたる活動を展開するアートプロジェクト〈引込線/放射線〉。今回は、政治は展示できるかという問いに本というかたちで取り組む。19の「展示」対象には、20世期前半の前衛芸術から新型コロナウイルスによる都市封鎖までが含まれる。「失史年表」と題された「展示」は、各所から収集された失われたものを掲載する。忘却させることが政治であるならば、忘却された何かを名指す作業も政治と呼びうるだろう。記憶と忘却を並置することで、ある政治を展示しながら異なる政治の可能性が呼び覚まされる。(岡)

引込線/放射線パブリケーションズ=企画、制作
EOS ART BOOKS|1500円+税
 

江之浦奇譚

 小田原文化財団の設立者である写真家の杉本博司のエッセイ集。ギャラリーや舞台などで構成される江之浦測候所がいかにして現在のかたちになったのか。25年以上にわたる記憶をたどって江之浦を中心とする各所をめぐりながら、土地に込められた様々な物語が語られる。「奇譚」と題されている通り、様々な偶然の積み重なりによって、この施設がいまのかたちを与えられたことがわかる。また鈴木心、小野祐次、森山雅智による美麗な写真からは、なぜ杉本が江之浦という場所を選ばざるをえなかったのかが存分に伝わってくる。(岡)

杉本博司=著
岩波書店|2900円+税

『美術手帖』2020年12月号「BOOK」より)

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