『美術・神話・総合芸術「贈与としての美術」の源へ』
実践と理論の両面にわたって活動を続けてきた著者による5年ぶりの単著。これまで展開してきた「贈与的行為」としての美術活動にまつわる思索をさらに深め、「美術」の語源となる複数形の「アーツ」にまで遡ってその根源的な作用を問い直す。無文字社会の神話的世界が表しうる多元的な思考と感覚、ニューギニア南東岸の島々に住む人々が行ってきた「クラ」と呼ばれる交易活動、さらには日本やインドの古代社会の伝承や儀式を幅広く参照し、人類学的な見地から「総合芸術」としてのアートを熟考する。(中島)
『美術・神話・総合芸術「贈与としての美術」の源へ』
白川昌生=著
水声社|2800円+税
『イメージを逆撫でする 写真論講義 理論編』
写真理論や美術史的アプローチなど、写真を語るための言葉は確実に増えてきているなかで、依然として写真が「語りにくさ」を抱えているのはどうしてなのか。モダニズム的写真論と文脈主義的な写真論の旧態依然とした対立、言説相互の結びつきのなさ──。そうした課題を批判的に見据え、べンヤミン、ブルデュー、ベルティンク、クラウス、バッチェンらの主要な言説を丁寧に読み直す。思考の枠組みを揺さぶり分析の臨界に誘うような、挑発的な読解を促すための写真論。(中島)
『イメージを逆撫でする 写真論講義 理論編』
前川修=著
東京大学出版会|4400円+税
『ART TRACE PRESS 05』
毎号充実したコンテンツを誇る美術批評誌の最新号。特集は「アフェクト・セオリー」。宇野邦一をゲストに迎えてフランシス・ベーコン論を語り尽くす巻頭鼎談、林道郎によるアフェクト理論の概説、エントロピーの概念を美学的に分析する松井勝正のロバート・スミッソン論、画中の色彩を幅広い明暗の圧縮として読み解く荒川徹のゴッホ論などを収録。峯村敏明の半世紀にわたる批評活動を振り返るロング・インタビューも読み応えあり。現代的な問題系だけでなく継承すべき歴史にも光を当てた渾身の1冊。(中島)
『ART TRACE PRESS 05』
松浦寿夫、林道郎=編
ART TRACE|2300円+税
(『美術手帖』2019年12月号「BOOK」より)