11月7日発売の 『美術手帖』2019年12月号は、「『移民』の美術」を特集する。
今年4月に「改正出入国管理法」が施行され、労働力としての外国人受け入れ拡大が加速する昨今。全国に多様な移民コミュニティが生まれ、身近なところで働く外国人が増えるなど、「新移民時代」を迎えた現代日本において、美術はどのような役割を果たしうるのだろうか。
本特集では、「移民」を広義に「外国にルーツを持つ人々」と設定し、彼らがつくり出す美術とその歴史、移民・難民と協働するアートプロジェクト、音楽や映画に見られる幅広い移民文化などを紹介する。
巻頭企画は、現代日本で暮らす「移民」たちの姿をとらえたフォトレポート。彼らが「移民」となった背景と日本での生活、そして言葉からは、様々な制約を「すり抜ける」ことで現代社会を生きる技術が浮かび上がってくる。
PART1では、「移民」当事者であるアーティストたちに取材。立場の異なる在日コリアンとして国内外で活動するアーティストから、表紙作品を手掛けた李晶玉(リ・ジョンオク)のほか、琴仙姫(クム・ソニ)とチョン・ユギョン、また、ペルー移民の父を持ち、移民をテーマに演劇作品を制作する神里雄大が登場し、作品とルーツ、国家と個人について語る。
そのほか、在日朝鮮人、南米・北米の日系移民が独自に築いてきた美術史についての解説や、多民族国家において移民のアイデンティティを支える「イミグレーションミュージアム」についての小論も掲載。
PART2では、アーティストたちによる移民・難民問題へのアプローチに注目。ハワイの日系移民による「ボンダンス」を撮影する写真家の岩根愛や、北海道開拓時代をテーマとした「移住の子」展を開催した進藤冬華に取材をしたほか、「移民」と協働するアーティストとして、高山明と田中功起が「あいちトリエンナーレ」の現場で対談。排外主義や差別をめぐるアートの社会的実効性を考察する。
また、国際的に活躍する「移民」アーティスト、ヒワ・Kのインタビューや、文化理論家の清水知子による、難民問題をめぐるアーティストたちのアクションについての論考も。
アートに限らない「移民文化」については、音楽家の菊地成孔、ライターの磯部涼、社会学者のハン・トンヒョンによる座談会を掲載。音楽、映画、文学などの重要作品と付随するキーワードをたどりながら、日本と海外の移民文化の展開を考察する。
ほか、ラッパーとしても活躍するなみちえや磯村暖など、若手アーティストへのインタビューも。在日外国人の権利保護や社会保障、日本人との共生に注目が集まるいま、「移民」の美術と「移民」のための美術の現在的な意味を考える、大ボリュームの特集となっている。
第2特集は、新作小説『トリニティ、トリニティ、トリニティ』を刊行したばかりの作家・マンガ家、小林エリカ。書き下ろし短編小説のほか、韓国文学界の第一線で活躍する作家キム・スム、現代詩の枠組みを超えて活動する詩人の最果タヒとの対談を収録している。ほか、宮永愛子のロングインタビューや、沖啓介による芸術評論募集佳作受賞第一作論考も掲載する。