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2019.6.10

「霧の彫刻」から、山口晃が描く親鸞まで。6月号新着ブックリスト(2)

雑誌『美術手帖』の「BOOK」コーナーでは、新着のアート&カルチャー本の中から毎月、注目の図録やエッセイ、写真集など、様々な書籍を紹介。第2弾では、昨年開催された「霧の抵抗 中谷芙二子展」 (水戸芸術館現代美術ギャラリー)のカタログから、山口晃による小説『親鸞』(五木寛之著)の挿画集まで、『美術手帖』6月号に掲載された注目の新刊を3冊紹介する。

評=近藤亮介(美術家)+中島水緒(美術批評)

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『現代アートの危機 ユートピア、民主主義、そして喜劇』

パリ第1大学教授や国立パリ高等美術学校長を歴任した、現代フランスを代表する知識人イヴ・ミショー。1990年代初頭にフランスの左派メディアが提起した、現代美術の危機をめぐる「大論争」をきっかけに書かれた本書は、諸言説の背後に潜むイデオロギーを冷静に分析し、国家・社会と芸術との関係を鋭く見抜く。西洋近代哲学に基づいて展開される批評は、アメリカ中心のアートワールドとは異なる、文化大国フランスに置かれた現代美術のもうひとつの位相を浮かび上がらせる。(近藤)

『現代アートの危機 ユートピア、民主主義、そして喜劇』
イヴ・ミショー=著
三元社|3500円+税

 

『霧の抵抗 中谷芙二子展』

水戸芸術館で行われた個展の公式カタログ。特殊ノズルから人工霧を噴射して辺り一帯を包み込む「霧の彫刻」、テレックス通信システムを用いた双方向コミュニケーションの実験、黎明期のヴィデオ・アート界を牽引した映像作品の数々など、中谷の代表作品を豊富な参考資料とともに振り返る。岡﨑乾二郎、藤幡正樹ら識者によるテキストに加え、禅への関心を綴った中谷自身によるエッセイなども収録。自然と人工、科学技術とアートを横断する貴重な活動が概観できる。(中島)

『霧の抵抗 中谷芙二子展』
水戸芸術館現代美術センター=監修
フィルムアート社|3800円+税

 

『山口晃 親鸞 全挿画集』

全国約40の地方紙に連載された五木寛之の小説『親鸞』の挿画集。2008年9月から14年7月まで7年間、全3部(計1052回)にわたった同作の全挿画を、原画のまま年代順に収録し、貴重な未発表図版や画家による解説を付す。画家本人も述懐するように、挿画には小説の重々しいイメージを和らげるためのユーモアがちりばめられている。劇画タッチの人物、情緒あふれるミニマルな風景、言葉遊びから生まれたユルい空想生物など、山口ならではの変幻自在な筆さばきと機知を堪能できる。(近藤)

『山口晃 親鸞 全挿画集』
山口晃=著
青幻舎|5500円+税

『美術手帖』2019年6月号「BOOK」より)