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INSIGHT - 2018.11.19

谷口吉生から藤森照信、安藤忠雄、杉本博司まで。名建築が集まる「清春芸術村」を訪ねて

山梨県北杜市に位置する「清春(きよはる)芸術村」をご存知だろうか? 広大な敷地内に清春白樺美術館をはじめ、多数の名建築が集まるこのアートスポットは開村から30年以上経ったいまも発展を続けている。そんな清春芸術村を訪ねた。

杉本博司と榊田倫之の新素材研究所による新築のゲストハウス(未完成)

杉本博司と榊田倫之の新素材研究所による新築のゲストハウス(未完成)

 1977年、東京で画商を営んでいた吉井長三(1930〜2016)が、小林秀雄(1902〜83)や谷口吉郎(1904〜79)、東山魁夷(1908〜99)らと桜の季節にこの地(山梨県北杜市長坂町)を訪れたことから、始まった「清春芸術村」をご存知だろうか。

 この芸術村があるのは、廃校になった清春小学校の跡地。1925年に同校の校舎落成を記念して、当時の児童たちによって植樹されたソメイヨシノがいまなお春には咲き誇る、桜の名所だ。そしてこの清春芸術村は、建築の名所でもある。

清春芸術村のエントランス

パリの名建築を完全再現。ラ・リューシュ

 芸術村に到着すると、まず出迎えてくれるのがシンボル的存在「ラ・リューシュ」だ。このアール・ヌーヴォー様式のロタンダ(円形建築物)は、エッフェル塔で知られる建築家、ギュスターブ・エッフェル(1832〜1923)設計によるもの。もともとは1900年のパリ万国博覧会のパビリオンとしてつくられたもので、現在もオリジナルはパリ15区に存在している。芸術村のこの建物は、吉井長三が設計図を買い取り、パリとまったく同じものを再現したもので、完成は1981年。現在も、アーティストのレジデンスとして機能している。

ラ・リューシュ

白樺派に捧ぐ。清春白樺美術館

 「ラ・リューシュ」から向かって右手にある「清春白樺美術館」は、その名の通り武者小路実篤や志賀直哉など白樺派の作家たちの活動を紹介するために建てられた美術館。1983年、谷口吉生の設計によって開館した館内は展示室が緩やかな螺旋を描いており、低層ながらも広々とした空間。白樺派が愛したジョルジュ・ルオーやロダンをはじめ、東山魁夷や梅原龍三郎、岸田劉生、バーナード・リーチなどの作品が展示されており、白樺派に関連する書簡や原稿などを見ることもできる。

清春白樺美術館
清春白樺美術館の内部
清春白樺美術館の内部。ロダン《歩く男》(1878)の向こうに「ラ・リューシュ」が見える

荘厳な祈りの空間。ルオー礼拝堂

 「清春白樺美術館」を出たら右手に目を向けてみよう。そこには同じく谷口吉生設計の「ルオー礼拝堂」(1986開堂)がある。打ちっ放しのコンクリートでできたこのモダンな礼拝堂には、ルオーが制作したステンドグラスやキリスト像などが配されている。これらはルオーの次女であるイザベル・ルオーが吉井に贈ったものであり、このことがきっかけで礼拝堂は生まれた。極めてシンプルなつくりの内部は、さながら瞑想のための空間のようでもある。

ルオー礼拝堂
礼拝堂内部、ルオー作のステンドグラス

画家のアトリエを移築。梅原龍三郎アトリエ

 「ルオー礼拝堂」の奥、茂みの中にある「梅原龍三郎アトリエ」も忘れてはいけない重要な建築だ。これは、東京・新宿にあった梅原龍三郎(1888〜1986)のアトリエを89年に移築したもので、設計は数寄屋造りや旧歌舞伎座の建築で知られる吉田五十八(1894〜1974)。内部には、梅原が実際に使用していたイーゼルやパレット、絵具箱のほか、製作途中の絵画なども展示梅原の息づかいが聞こえてきそうな空間となっている。

梅原龍三郎アトリエ
梅原龍三郎アトリエの内部(内部への立ち入りは不可)

照らすのは自然光のみ。光の美術館

 芸術村の中心部である広場に戻ろう。ここにはあと2つ、重要な建築が存在している。ひとつが、現時点でもっとも新しい村内の建築物である「光の美術館」(2011年開館)だ。

 安藤忠雄が設計したこの箱型の美術館は、その名の通り展示室に一切の人工照明がない、自然光のみの美術館。ガラスで切り取られた天井の一角や、壁のスリットから入る光は刻一刻と変化を続け、季節や時間によって様々な表情を展示室に与える。なお現在、ここでは篠山紀信による個展「光の情事」が開催中

光の美術館
光の美術館で開催中の篠山紀信「光の情事」展

地上4メートルの揺れる茶室。茶室 徹

 「光の美術館」を出て右手に進むと、そこは藤森照信による「茶室 徹」(2006年完成)がある。この茶室があるのは地上約4メートルの場所。樹齢80年の檜を使って支えられた茶室の設計には、素人建築趣味集団である「縄文建築団」のメンバーや、赤瀬川原平、南伸坊、林丈二らが携わったという。

 通常は非公開だが、内部は実際にお茶を点てられるようになっており、人が動くたびに茶室も揺れるというユニークな構造だ。

茶室 徹(通常は内部への立ち入りは不可)
茶室 徹の内部(通常は立ち入り不可)
茶室 徹の内部(通常は立ち入り不可)

杉本博司の美意識がここに。ゲストハウスが19年春に竣工

 これらの建築群に、2019年春、新たな建築が加わる。それが、杉本博司と榊田倫之の新素材研究所によるゲストハウスだ。

 新素材研究所にとって、「小田原文化財団 江之浦測候所」(小田原市)に次ぐ建築作品となるこのゲストハウスは平屋建てで、屋根には板と銅が葺かれている。建築には新素材研究所のシグニチャーデザインでもある敷瓦や、江之浦測候所と同様に福島から切り出された巨石などが用いられており、随所に杉本の美意識を見ることができる。

新素材研究所によるゲストハウス(未完成)
新素材研究所によるゲストハウス(未完成)
新素材研究所によるゲストハウス(未完成)
新素材研究所によるゲストハウス(未完成)

 このほか、村内には1989年のエッフェル塔完成100周年の際にフランスから移設されたエッフェル塔の一部「エッフェル塔の階段」や、杉本博司デザインのレストラン「素透撫 STOVE」、谷口吉生設計のレストラン「ラ・パレット」、白樺派の資料を収めた「白樺図書館」(現在休館中)など、見どころは尽きない。

 現時点でこれだけ多くの建築を有する清春芸術村だが、今後も新たな建築プロジェクトは継続されるという。発展を続けるこの「建築の聖地」から目が離せない。