『月岡芳年伝 幕末明治のはざまに』
おどろおどろしい「血みどろ絵」で知られる、幕末から明治にかけて活躍した「最後の浮世絵師」月岡芳年。伝記・研究史・作品分析を通して、多角的な視点から通説を覆し、芳年とその作品の実像を描き出す。緻密な本論に加えて、文献目録や年譜などの巻末資料は、将来の芳年研究のみならず、これまで日本美術史のなかで過小評価されてきた明治の浮世絵研究にも役立つだろう。明治元年から150年を迎えたいま、ひとりの絵師から激動の時代に思いをはせるのも一興である。(近藤)
『月岡芳年伝 幕末明治のはざまに』
菅原真弓=著
中央公論美術出版|3600円+税
『ル・コルビュジエがめざしたもの─近代建築の理論と展開─』
2016年に世界遺産登録され、改めて注目を集めた国立西洋美術館。本書は、その設計者であるフランス人建築家のル・コルビュジエを中心に、「近代建築の五原則」の復習からジェイコブス『アメリカ大都市の死と生』の分析まで、同時代の日本の動向も視野に入れつつ、建築とモダニズムについて論じる。とりわけ最終章は、ギーディオンや太田博太郎らの建築理論の系譜を巧みに概括しており、近代建築と言説との密接な関係に改めて気づかせる。著者による建築論「現代編」も近日刊行予定。(近藤)
『ル・コルビュジエがめざしたもの─近代建築の理論と展開─』
五十嵐太郎=著
青土社|2600円+税
『ダークツーリズム拡張 ─近代の再構築』
ダークツーリズムとは戦場や被災地など「悲劇の場」をめぐることで歴史の再解釈を行う身体的な方法論のこと。「拡張」と銘打った本書は、入門編というよりは一歩踏み込んだ視点による8編の紀行録から成る。取材対象は、独立までに複雑な経緯をたどったマレーシア、移民問題が浮かび上がるパリやロサンゼルス、世界遺産に登録されたばかりの長崎など。私たちが生きる近代世界を読み解くためにも、ダークツーリズムを通じた記憶の承継がいま必要だ。(中島)
『ダークツーリズム拡張─近代の再構築』
井出明=著
美術出版社|2500円+税
(『美術手帖』2018年12月号「BOOK」より)