——2009年のローンチ以来、これまで13万件、合計3600億円以上のプロジェクトを支援してきた「Kickstarter」が日本でのサービスを9月13日にスタートさせました。なぜこのタイミングだったのでしょうか?
本当は創業当初から日本でサービスを行いたかったのですが、10年かかってしまいました。なぜこれほど時間がかかったのかというと、”ちゃんとやりたかった”からです。単純に「アメリカの企業が支店を開く」ような感じではなく、その国のカルチャーに入っていけるようなかたちでないといけない(そもそも「Kickstarter」はそういうサービスです)と思っていたので、その準備に時間がかかりました。
——日本には現在、「Motion Gallery」や「CAMPFIRE」などのクラウドファンディングサービスがありますが、「Kickstarter」の強みとは何でしょうか?
そもそも「Kickstarter」はクラウドファンディングサービスのオリジン(元祖)なので、 日本の他のサービスは競合相手ではありませんし、ユーザーにとっての選択肢として、他のサービスもどんどん育っていけばいいなと心から思っています。私たちの強みはグローバルであること、信頼があること、そしてすでに多くの人々が使っていることです。クリエイターにとっては世界中の人たちにアクセスし、世界に出ていくためのきっかけになります。
——「クリエイター」という言葉が出ましたが、「Kickstarter」はアートやデザイン、ファッション、映画などカルチャー分野へのファンディングに特化していますね。これはなぜですか?
もちろん全分野をサポートしたいのですが、テック分野の起業家たちは「Kickstarter」以外の選択肢——たとえば投資家からお金を借りるとか——もあります。私たちが心の底からサポートしたいと思っているのは、「小さなモノをつくって、100人に見せたい」とか「一部の人にしかわからないけど、どうしても何かをつくりたい」とか、大きな仕組みに乗ることができない人たちのプロジェクト。そのために「Kickstarter」はあると思っています。
私は「Kickstarter」に携わる以前、音楽ジャーナリストだったのですが、共同設立者を含め、スタッフ全員がカルチャーに対する情熱を持って仕事をしています。世の中の多くの人がお金のことを考えているのであれば、私たちはカルチャーのことを考えていきたい。
——おっしゃるように、メジャーではないプロジェクトを目指す人たち以外に、たとえばアイ・ウェイウェイなど世界中のアーティスト、あるいは美術館も「Kickstarter」で資金を募っています。これはなぜだと思いますか?
著名人だからといってすべてのプロジェクトを実現できるわけではないと思うんですね。アイ・ウェイウェイやスパイク・リーにはスポンサーもいると思いますが、だからといって彼ら個々の欲求を満たすためにそのお金を使えるわけではない。だから、彼らのような人たちにも「Kickstarter」みたいなプラットフォームが必要なときがあるんです。
——「Kickstarter」は過去に『ニューヨークタイムズ』紙で「the people's NEA」(人々のための芸術基金)と称されたこともありますね。
クールですよね(笑)。私たちは6週間前にワシントンD.C.でロビー活動をしていたのですが、「Kickstarter」としては全米芸術基金の予算をカットしてもらったほうが、売り上げは上がるんです。国からサポートを受けられなくなれば、「Kickstarter」を使わざるを得なくなるわけですから。でも我々は「Public Benefit Company」という法的に社会のために働かなくてはいけない形態をとっている会社。だからロビー活動では、いかに世の中の仕組みが良くなるかだけを考えています。それが結果的に我々の売り上げを下げてしまったとしてもです。
——実際にトランプ政権になって以降、NEAの予算がカットされそうになったり、芸術分野に対する公的資金のあり方は厳しくなる一方だと思うのですが、そのような状況において「Kickstarter」はどういう成長曲線を描いているのでしょうか?
トランプについてはなんと言えばいいのかわからないですね......すみません。良くなることを願うばかりです。アメリカ以外で一番大きいマーケットはイギリスですが、去年はシンガポールと香港でサービスを開始し、そこではアメリカよりも大きな伸び率になっています。
——今回の日本版ローンチは、日本のクリエイターにどのような影響を与えると思っていますか?
いままでもインターネットの抜け道を使って日本からプロジェクトを立ち上げた人たちもいたのですが、これからは正式に、日本の人が日本から、日本の銀行口座を使ってプロジェクトを立ち上げることができるようになりました。これまでより、はるかに多くの日本発のプロジェクトが出てくることを願っています。今後は、世界中のクリエイターが世界中のサポーターたち(バッカー)とコミュニケーションを取れるような仕組みを考えていきたいですね。