EXHIBITIONS

渡辺豪「所在について」

2022.03.05 - 04.02

渡辺豪 回転するアトリエ(ロフト) 2021-2022

渡辺豪 「第13回恵比寿映像祭 映像の気持ち」(日仏会館ギャラリー、東京、2021)での展示風景

渡辺豪 積み上げられた本(4つの総合) 2019-2021

 ANOMALYでは、渡辺豪の個展「所在について」を開催する。会期は3月5日~4月2日。

 渡辺は1975年兵庫県生まれ。愛知県立芸術大学美術研究科油画専攻を修了し、現在は東京を拠点に活動する。大学大学院在籍中より3DCGを用いた作品の可能性を探求し始め、2002年には、コンピュータグラフィックスで立体形状を描画する際に用いられる多角形の「ポリゴン」で構成した顔に、ヒトの皮膚画像を貼り付けた作品《“フェイス”》を発表。本作は「フェイス(“ポートレート”)」シリーズへと展開された。

 09年頃からは同様の手法を用いながらも、モチーフを自身の身の回りにある本や食器、部屋などへと移し、身近な風景が物質的な制約や光学的な法則から離れて動き、変化をみせるアニメーションを制作。作品がもたらす整合性を欠いたものの在り様や光の振る舞いは、自明のものとして見ている世界を撹乱し、私たちが「何を見ているのか」を静かに問いかける。近年は展示空間をアニメーションから延長される場所ととらえ、複数チャンネルのインスタレーション作品を発表するなど表現の幅を広げている。

 渡辺が作品制作において極めて重要な要素のひとつとしているのが「光」だ。13年の五島記念文化賞美術新人賞受賞をきっかけに約1年間滞在したフィンランドで、太陽がほとんど沈まない「白夜」と、日照時間が極めて短い「極夜」のなかに身を置き、これまで無意識のうちに習慣的に行っていた、光の変化によって昼夜を識別し、身体を同期させるという生理現象がまったく機能しなくなる体験をした。知覚・認識と身体感覚が大きく乖離する未知の体験を通じて、この世界に存在する物体が人間の目に向かってくる光の反射であるということ、そしてその光こそが身体への影響を強くもたらすことを意識する契機となった。

 本展では、渡辺の「アトリエ」と「家」の2つの場所に関する新作アニメーション、21年の恵比寿映像祭で日仏会館にて展示された、家の床に積み上げられた本をモチーフにしたアニメーション作品《積み上げられた本》およびプリント作品を展示。これらの作品はいずれも日常見慣れた作家の身の回りのものをモチーフとしており、実際にモチーフが置かれていた状況とは異なるまったく別の場所や時間から持ち込まれた光によって、それらが照らし出されるという点で共通している。そして鑑賞する私たちの視線は、複数の時間や光源で構成される、緩やかに移り変わる光の連続パターンによって異なる時空を行き来し、そこに至るまでの時間と、そこから始まる次の時間への流れを意識することとなる。

 物語的なモチーフや劇的な設定がなくとも、光の存在そのものがひとつのドラマとなり、光の加減で世界の見え方が変わることを如実に表現する絵画的とも言える手法は、油絵を学び、よりリアルな表現を追求するべく、3DCGへと移行した渡辺ならではの特異な映像表現だ。VR技術やアバターの開発など、メディアやネットワークが急速に発展する現況において、渡辺の作品は、私たちに「見ること」を再認識させ、身体感覚の変容や意識の覚醒をもたらす有効な視点を与えてくれることだろう。