Keith Haring: Humanism -博愛の芸術-

　1980年頃、ニューヨーク中の地下鉄構内に《サブウェイ・ドローイング》を描き始めたキース・ヘリング。「アートはすべての人のために」という信念のもと、世界各地でワークショップや壁画制作を意欲的に実施し、子供病院などの公共施設へ作品を寄贈した。

　また、景気の低迷、人種差別、エイズ感染の拡大など様々な問題を抱えた80年代ニューヨークの混沌とした時代を背景に、エイズ予防啓発や反アパルトヘイト、アフリカ緊急救援基金の展覧会などのために、数多くのポスターを制作。社会の束縛や抑圧からの解放と、人間の自由と平等を掲げた。

　ヘリングの芸術を象徴する作品のひとつ《スウィート・サタデー・ナイト》は、85年にブルックリン・アカデミー・オブ・ミュージックで、黒人のストリートダンスと社交ダンスの300周年を記念して上演されたパフォーマンスの舞台セット。横幅6メートルを超える大画面に黒い線が踊るように描き、ニューヨークで最盛期を迎えていたクラブカルチャーの熱気と生命力、愛と生きる喜びを表現した。

　本展では、一部の富裕層に独占されたアートを否定し、人種も宗教も性別も凌駕する愛を信じたヘリングの思想を、中村キース・ヘリング美術館のコレクションとともに紹介する。