クリスチャン・プーレイ「Geographies of Love」

　Gallery 38で、クリスチャン・プーレイによる新作展「Geographies of Love」が開催されている。

　1983年生まれのプーレイは、南米・チリのなかでもとりわけ植民地化による複雑な歴史を持つ土地で幼少期を過ごす。その後チリで絵画を学び、ロンドン、パリへと拠点を移しながら画家として高い評価を獲得してきた。

　自らが育った土地や家族のアーカイブ写真をもとに生み出される夢と現実の狭間のような情景は、イメージの大部分が抽象化されており、柔らかな印象のなかでノスタルジーに陥りそうな鑑賞者に、大胆で力強い絵筆の跡とどことなく不穏な空気が緊張感を与える。

　ある土地に根ざす感覚、特定の場所やコミュニティへの感情的なつながりは、個人の心理的風景と社会的アイデンティティを形成するうえで重要な役割を果たしている。観客が彼女の風景の前に立ち、風景に佇む人物が誰なのか、そこがどこなのか、自分自身の記憶と対話し、絵画の前を往復しながら様々な角度からその風景の奥を見つめられるだろう。

　紛争や混乱に満ちた現在のなかで、自身のなかに折り重なる時間や記憶のレイヤーに触れながら絵画と向きあうこと。他者への尊厳に由来する対話こそが重要な世界において、その力を問う。