EXHIBITIONS

倉敷安耶 個展「腐敗した肉、その下の頭蓋骨をなぞる。」

2023.07.22 - 08.11

倉敷安耶 九相図 2023

 銀座 蔦屋書店で倉敷安耶の個展「腐敗した肉、その下の頭蓋骨をなぞる。」が開催されている。

 倉敷は1993年兵庫県生まれ。2020年に東京藝術大学大学院美術研究科油画専攻を修了した。現在は東京を拠点に活動している。作中では主に転写技法を用いた平面作品を中心にパフォーマンス、インスタレーションなど複数のメディアを取り扱い、他者との密接なコミュニケーションや共存の模索、あるいは融合などを試みる。

 倉敷は、おもに西洋絵画や自身が撮影した写真、ネットからダウンロードをした画像を組み合わせコラージュのようなものを作成し、支持体に転写して作品を制作している。支持体もキャンバスや織物、鏡や石など様々で、転写する際に生まれるひび割れの先から支持体の性質が垣間見え、この偶発的要素によって都度表情が異なる。

 本展では、共同体内での「眼差し」を振り返る目的として東洋、西洋絵画内における女性像に焦点を置き、聖書に登場する女性をモチーフとした《九相図》と題する作品を発表する。九相図とは、屋外に置かれた死体が朽ち果てていく過程を9つの段階に分けて描く死体の不浄や無常観を表現する仏教絵画のことだ。しかし、不浄の肉体をさらすことが自らの強い意志と自⼰犠牲の精神を描写し、他者の発心を助けた者として尊ばれるという一面も九相図にはある。

 いっぽう、キリスト教圏ではイエス・キリストに対し香油を施したマグダラのマリアという女性が登場する。香油は死者の腐臭を和らげるため、また死体の不浄を祓うために使用され、近く来たるべき救い主の死を暗示するものとして考えられてきた。香油は娼婦の商売道具でもあり、罪と死を象徴するマグダラのマリアらを主題とした宗教画ではアトリビュートとして頭蓋⾻が度々描かれている。

 宗教は魂の救済のためではなく、共同体の保全と繁栄のために存在している側面もある。共同体の秩序を保つためまた、宗教を信じる者にとって境界に規定されないもの、穢れという存在への「眼差し」が不可欠だった。それは現代を生きる人間にも同様と言える。

 本展を通し、倉敷は境界からはみ出す異例なもの、あるいは境界上にある曖昧なものとの接触により自⼰と物質の属性と、自⼰と他者との相互関係の探求を試みる。