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美術館はどうあるべきか? 全国美術館会議が「美術館の原則と美術館関係者の行動指針」を公表

全国386の国公私立美術館が加盟する「全国美術館会議」は今年、初となる「美術館の原則と美術館関係者の行動指針」を採択、発表した。このタイミングでの採択にはどのような狙いがあるのか?

全国美術館会議事務局が入る国立西洋美術館 出展=ウィキメディア・コモンズ

 「全国美術館会議」(以下、全美)は、1952年に創立。日本全国にある386の国公私立美術館(国立9館、公立242館、私立135館)が加盟する美術館の一大ネットワークとして研究部会や学芸員研修、そして災害対策など、様々な活動を展開している。この全美が2017年5月25日の第66回全国美術館会議総会で採択したのが「美術館の原則と美術館関係者の行動指針」だ。

 この「美術館の原則と美術館関係者の行動指針」では、美術館のあるべき姿を示した11の原則と、それに対応する美術館関係者の11の行動指針が定められている。たとえば原則には、「1. 美術館は、美術を中心にした文化の価値を継承・発展、さらに創造させることに努め、公益性・公共性を重視して人間と社会に貢献する」などがあるが、なぜこのタイミングでの採択、そして公表が行われたのか。10月10日に同会議会長の建畠晢(埼玉県立近代美術館館長)と副会長の山梨俊夫(国立国際美術館館長)が国立西洋美術館で報道陣への説明を行った。

美術館の原則

 両氏によると、今回の原則と行動指針の検討が始まったは約5年前。「美術館運営制度研究部会」において、当初は「美術館倫理規定」として検討され始め、その後全加盟館に必要の是非を問うアンケート(賛否は半々だったという)などを実施。第10草案まで検討し、採択にいたったという。

 現在、美術館の運営は、行政などの直営ではない指定管理者制度による効率化の追求や、山本幸三・元地方創生担当大臣による「学芸員はガン」発言などに見られる美術館活動に対する認知度の低さ(あるいは軽視)など、決して楽観的とは言えない状況にある。そんな様々な要因が重なったことも、今回の原則と行動指針の策定につながっている。

右から建畠晢会長と山梨俊夫副会長

 この「美術館の原則と美術館関係者の行動指針」は、12年に全国1135館の博物館・美術館が加盟する日本博物館協会が、ICOM(国際博物館会議)の「職業倫理規定」を準拠に制定した「博物館の原則 博物館関係者の行動規範」を参照するかたちで作成されている。しかしながら、博物館と美術館では性格が異なる部分もあるため、この「原則と行動指針」には美術館の独自色も見られる。たとえば、「行動規範」ではなく「行動指針」となった理由については、「規範では倫理性が強く、美術館関係者の活動を縛りかねない。もう少し緩やかなものとして『指針』とした」(山梨)という。

 また、原則の4には「美術館は、倫理規範と専門的基準とによって自らを律しつつ、人々の表現の自由、知る自由を保障し支えるために、活動の自由を持つ」と、表現の自由に言及した原則が入っていることも特徴的だ。創作物・著作物を扱う美術館には必須の項目だが、この原則は「美術館の活動を縛るような状況が発生したとき、これを以て、その束縛を正すことに役立つ可能性もある。これが日常的な活動を支えていく役割になれば」(山梨)という考えもあり、盛り込まれたという。

 現在の美術館を取り巻く環境を「数多くの美術館が設立され、社会変化や経済情勢の影響を受けてその活動がともすれば揺らぎがちな状況」としている全美。この「原則と行動指針」には法的効力はなく、曖昧な部分もある。しかしそれは、「規模や分野も異なる様々な美術館が集まる全美の加盟館が、これをもとに、それぞれの美術館に合った方針をつくってほしい」という想いの表れでもある。

 先進国では、アメリカやイギリス、ドイツ、カナダなどが独自で「美術館の原則」に類するものを制定しているが、日本の美術館界としては初の試みとなった「美術館の原則と美術館関係者の行動指針」。博物館法とは別に、美術館自身によってつくられた原則と行動指針が、今後の美術館運営にどのような影響を及ぼしていくのか、注視したい。

 なお、「美術館の原則と美術館関係者の行動指針」は全国美術館会議のウェブサイトから閲覧でき、今後はパンフレットとして全国の加盟館に配布する予定だという。

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