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「札幌国際芸術祭2017」が開幕。大友良英が問いかける「芸術祭ってなんだ?」

70組を超すアーティストが参加する「札幌国際芸術祭2017」(Sapporo International Art Festival 2017 略称:SIAF2017)が8月6日に開幕した。ゲスト・ディレクターにミュージシャン・大友良英を迎える今回のテーマは「芸術祭ってなんだ?」。その問いはどのようなかたちで街中に展開されたのか?

8月5日の「八月祭」に参加したさっぽろコレクティブ・オーケストラのメンバー。後列中央に大友良英。隣にはクリスチャン・マークレーの姿も

 2015年に初回が開かれて以来、2回目となる「札幌国際芸術祭2017」がついに開幕した。前回、ゲスト・ディレクターに坂本龍一を迎え、「都市と自然」をテーマに47万人以上の来場者数を記録した札幌国際芸術祭。今年は音楽家の大友良英がゲスト・ディレクターとなり、「芸術祭ってなんだ?」を掲げる。

 数々の芸術祭が開催されている日本の現状に一石を投じるようなテーマだが、大友はここに何を込めたのだろうか。 「札幌国際芸術祭をまず札幌/国際/芸術祭に分けて考えてみた。でも見に来る人がこれの答えを出す必要はないと思う。市民それぞれが考えればいいし、『現代美術』『現代音楽』みたいにハードルを上げたくもない。前回の続きとして今回はあるし、今後も続いてほしい」。そう大友が語るSIAF2017は実際に何を見せ、何を伝えているのか? 各エリアの代表的な作品を見ていこう。

大友良英と秋元克広札幌市長

|モエレ沼公園エリア

 今回、もっとも中心的な役割を担い、大友が「SIAF2017のはじまりの地」としているのがモエレ沼公園だ。言わずと知れた彫刻家、イサム・ノグチがデザインしたこの広大な公園は、ゴミ処理場の跡地としても知られている。このゴミ処理場を一つの「大きな彫刻」へと変えたイサム・ノグチの思想に共鳴した大友。ここでは「RE/PLAY/SCAPE」と題した企画展が、公園の象徴的存在であるガラスのピラミッドを拠点に開催されている。

モエレ沼公園のガラスのピラミッド

 大友良英+青山泰知+伊藤隆之は100台以上の中古レコードプレーヤーを使った《(with)without records》(2017)を発表。かつては誰かによって使われていたレコードプレーヤーを市民がワークショップで加工し、プログラミングによってアンサンブルを奏でる。「ゴミからの再生」というモエレ沼公園自体のコンセプトに共鳴した作品だ。

 また伊藤隆介は、モエレ沼公園の歴史に焦点を当てた作品《層序学》(2017)で廃棄物が積層したジオラマを制作。ジオラマを映したライブ映像によってフィクショナルな風景を展示室に生み出す。

 2014年に世界初の芸術衛星を打ち上げた「ARTSATプロジェクト」とSIAFラボによるコラボレーション企画《Sculpture to be Seen from Space, Improvisation to be Heard from Space. 宇宙から見える彫刻、宇宙から聞こえる即興演奏》(2017)は、モエレ沼公園から放出された成層圏気球で採取した映像データをもとにした作品を展示。大地の彫刻としてのモエレ沼公園を宇宙へと接続させる試みだ。

大友良英+青山泰知+伊藤隆之 (with)without records 2017
ガラスピラミッドの外からも見える巨大な黄色いバルーンは松井紫朗の《climbing time / falling time》(2017)。ここにも《(with)without records》(2017)の一部が展示されている
ARTSATプロジェクト×SIAFラボ Sculpture to be Seen from Space, Improvisation to be Heard from Space. 宇宙から見える彫刻、宇宙から聞こえる即興演奏 2017

|札幌芸術の森エリア

 札幌市街地を挟み、モエレ沼公園とは反対方向にある「札幌芸術の森」。約40ヘクタールという広大な敷地に札幌芸術の森野外美術館、札幌芸術の森美術館などが点在するこの場所で展開されているのが「NEW LIFE:リプレイのない展覧会」だ。音を表現の入り口として、唯一無二の活動を続けてきたアーティストたちが集うこの会場。企画の藪前知子(東京都現代美術館学芸員)は、「通常、展覧会は過去に紐づけられている作品を見せるものですが、そうではないものができないかと思って挑戦した」と本展の狙いを説明する。

 本展でメインとなるのは、ターンテーブルなど録音メディアを使った演奏の先駆者であるクリスチャン・マークレーだ。かつて大友が衝撃を受けたという《カバーのないレコード》(1985)をはじめ、2005年に東京郊外のリサイクル工場で実際にゴミがリサイクルされていく様子を映像化した《Recycling Circle》(2005)など、個展規模で「再生」をテーマにした作品の数々を見ることができる。「私の作品はビジュアルアートであると当時にサウンドアートでもある。私の作品はその境界にあります」と語るマークレー。そのスタンスは本芸術祭の傾向を象徴するものだと言えるだろう。

クリスチャン・マークレー カバーのないレコード 1985
クリスチャン・マークレー Recycling Circle 2005

 また60年代よりフルクサスにも参加するなど、前衛音楽の世界をリードしてきた刀根康尚は、詩人ギョーム・アポリネールの「視覚詩」の一つ『Il Pleut(雨が降る)』の朗読音声を、インスタレーションによって実際に降らせる新作《IL Pleut(雨が降る)》(2011/2017)を展示。音声が「音滴」となって、上から下へと落ちてくる様子を聴くことができる。

刀根康尚《IL Pleut(雨が降る)》の展示風景

 前回、「札幌国際芸術祭2014」で清華亭を会場に作品を発表した毛利悠子は、2回連続の参加となった。今回の展示会場は、札幌市立大学芸術の森キャンパスにある空中回廊「スカイウェイ」。今回の芸術祭のために、石狩湾から音威子府(おといねっぷ)までを北上したという毛利。夕張の元炭鉱街に捨ててあった100年前の碍子(電線の絶縁体)や、北海道を代表する彫刻家・砂澤ビッキのアトリエで朽ちたトーテムポールなどと出会い、新作の構想を練ったという。新作《そよぎ またはエコー》(2017)は、時間や風雪によって摩耗・風化していくモノからインスパイアされたもので、物質の変化を音で表現。全長70メートルという大空間を活かし、光と音の速度のズレを巧みに作品に取り込んでいる。

毛利悠子《そよぎ またはエコー》(2017)の展示風景
毛利悠子《そよぎ またはエコー》(2017)の展示風景
毛利悠子《そよぎ またはエコー》(2017)の展示風景

|まちなかエリア

 70年代にデパートとして建てられた「金市館」。このワンフロアを丸ごと作品に変えたのは、日用品や廃材などを素材としたインスタレーションを手がける梅田哲也だ。約300坪という広大な空間に散らばるのは、金市館にもとからあった材料や、札幌市内各所から集めてきた廃材。《わからないものたち》(2017)は、作家自身も何が起こるかわからないという状況(環境)を生み出し、ここでしか成立しえない体験を提供する。

梅田哲也《わからないものたち》の展示風景
梅田哲也《わからないものたち》の展示風景

 いっぽう、すすきのの中心部にある「北専プラザ佐野ビル」では札幌在住のアーティスト・端聡が循環をテーマにした《Intention and substance》(2017)を展示。すすきのという消費社会を象徴する歓楽街で、循環型社会への問題提起を行う。

 同じく「北専プラザ佐野ビル」の地下1階ではディープな札幌に出会うことができる。「札幌の三至宝 アートはこれを超えられるか!」と題した企画では、1994年6月に開館した「レトロスペース坂会館(本館)」や「てっちゃん」こと阿部鉄男が、20年の歳月をかけて店内を様々なモノで埋め尽くした「大漁居酒屋てっちゃん」、2010年に閉館した北海道秘宝館の蝋人形「春子」など、美術という分野では説明できない膨大な蓄積が潜んでいる。

端聡《Intention and substance》(2017)の展示風景
「北専プラザ佐野ビル」地下の「大漁居酒屋てっちゃんサテライト」

|円山公園エリア

 写真家で冒険家の石川直樹は、札幌宮の森美術館での個展「New Map for North」で参加している。ここでは2001年から15年以上にわたり、北海道や知床半島、サハリンなどを旅しながら撮影した写真の数々を展示。立石信一(アイヌ民族博物館)と彫刻家・国松希根太によるプロジェクト「アヨロラボラトリー」がここに加わり、白老と登別の境にあるアヨロとクッタラという地を、写真や彫刻で表現する。

 また札幌市円山動物園では、鉄道模型を使って独自の影の風景を生み出すクワクボリョウタが新作《LOST #16》(2017)を発表。かつて大正から昭和にかけ、日本中の「鳥瞰図」を作成した吉田初三郎の仕事を参照し、北海道の風景を影で紡ぐ。

石川直樹「New Map for North」展の会場風景。手前から国松希根太《WORMHOLE》(2017)、《TIMESCAPE》(2017)
石川直樹「New Map for North」展の会場風景

|資料館エリア

 札幌市街地の中心部に位置する札幌市資料館。ここではその名にふさわしいアーカイブ要素の強い展示が行われている。札幌を拠点に、1983年から実験音楽を中心とするコンサートを行ってきたNMA(NOW MUSIC ARTS)のライブ・ビデオアーカイブでは、30年以上前の大友良英やクリスチャン・マークレーのライブパフォーマンスの記録も見ることができる貴重な機会だ。

 「北海道の三至宝:アートはこれを超えられるか!」で注目したいのは、約200体以上の木彫りの熊が集合した「北海道の木彫り熊〜山里稔コレクションを中心に」だろう。かつては北海道の土産物の定番だった木彫りの熊。これは農民が冬季に副収入を得るために盛んにつくられたものだが、近年はその需要が減っているのが現状だ。ここでは造形作家でランドスケープデザイナー・山里稔が収集した木彫り熊を中心に、道内コレクターから借りてきたという熊の数々をあわせて展示。木彫りの熊を通して北海道の歴史を俯瞰する。

NMAライブ・ビデオアーカイブ展示室
「北海道の木彫り熊〜山里稔コレクションを中心に」の展示風景。手のひらサイズから巨大なものまでが一堂に揃う
札幌市資料館は国の登録有形文化財。建物自体にも見どころがたくさんある

 数ある芸術祭とどう差別化するのか。2014年にスタートした「後発」とも言える札幌国際芸術祭の課題はそこにあったのだろう。前回、坂本龍一をゲスト・ディレクターに迎え、メディア・アートを核にした展示の数々で独自色を見せた札幌国際芸術祭は、大友良英によって受け継がれ、「札幌」の要素がさらに強くなった印象だ。

 ミュージシャンでありながら、アートの分野でも活躍する大友らしく、音楽とアートの境界をまたぐような作品が目立つ今回。「ガラクタの星座たち」というサブテーマを設けたことで、「再生」(これは音楽の「再生」にもつながる)というキーワードが全体を見事に貫いている。「理屈抜きに楽しんでほしい」。そう大友が語るように、アートの文脈では測りきれないものも多く含まれるこの芸術祭で、あなたは「芸術祭ってなんだ?」という問いをどう受け止めるだろうか。

市民オーケストラを指揮する大友良英

編集部

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