シンディ・シャーマンは1954年アメリカ生まれのアーティスト。その作品は、自身を被写体とした「セルフ・ポートレート」で知られており、70年代末に制作された「アンタイトルズ・フィルム・スティル」は、シャーマンを代表するシリーズだ。これは約70枚のモノクロ写真によって構成されたもので、シャーマンが50~60年代の映画の1シーンを彷彿させるような古着やカツラなどを身につけ、様々な女性に扮している。
その作品制作にはアシスタントを使わず、すべて一人でこなすことでも有名で、2016年に高松宮殿下記念世界文化賞(絵画部門)受賞の際は、「一人なら完璧に自由。必要なことはなんでも邪魔されずに自分の意志でできる」とコメント。同年、シャーマンはそれまで封印していた他人に扮するセルフ・ポートレートを5年振りに再開。1920年代の女優に扮した作品20点を発表している。
そんななか、突如としてネット上に浮上したのがシャーマン本人のものと見られるInstagramアカウントだ。投稿自体は2016年10月からスタートしているが、そのアカウントが公開状態になったのはごく最近のこと。当初は風景や料理など、何気ない日常が投稿されていたが、5月13日の投稿からその様子は変化を見せている。いわゆるセルフィー(自撮り)をベースにしながら、数々のフィルターによって顔は加工されており、一見シャーマンであるかどうか判断できないものもある。これはシャーマンにとって、新しい作品なのだろうか? またなぜここまで歪ませた写真の数々を投稿するのだろうか?
美術家で数々の美術批評も行う石川卓磨はこう話す。「リチャード・プリンスのインスタグラムの利用は、いかにも彼らしい現代アートへの盗用で、スキャンダルは起こしたけれどインスタグラムの認識は少しも変えなかった。シンディー・シャーマンは、一プレイヤーとしてインスタグラムのなかに参入した。SNSに投稿される多くのセルフィーは、ポスト・トゥルースと言わんばかりに身体を過剰に加工するが、その美の基準はどこまでも観念的で暴力的だ。彼女はそれを逆手にとって、グロテスクなユーモアによって自らの身体を大きく歪めてみせる。彼女のインスタ画像は、歪んだ鏡として私たちの姿を映している。シャーマンは、誰にでもできるフィールドで彼女にしかできない開かれた出来事をつくった」。
シャーマンの投稿は、Instagramを通した芸術表現にどのような影響を与えていくのか。今後の動向に注目したい。