1978年に神奈川県に生まれた渡辺篤は、東京藝術大学在学中から、自身の経験に基づき、傷と向き合うことをテーマに活動を続けてきた。近年では、大学卒業後に経験した「ひきこもり」をテーマに、作品を展開している。
2014年の《止まった部屋 動き出した家》では、コンクリート製の家型建造物の中にこもり、一週間後に自力で壁を破壊して脱出するというパフォーマンスを行った。その際、ひきこもりを続けている当事者たちに、彼らが暮らす部屋の写真をウェブを通じて募集。集まった約60点を会場に展示した。
16年の黄金町バザールで発表された《プロジェクト「あなたの傷を教えて下さい。」》では、ウェブを通じて募った心の傷に関するストーリーをコンクリート板に書き、それをあえて割ったのち、伝統的な「金継ぎ」技法で修復するという作品を制作した。現在進行形で修復が行われているこれらの作品は、渡辺のSNSを通じてリアルタイムで見ることができる。
本展では、近年制作されているこれらの作品が展示される。また現在、部屋に閉じこもっていた自分自身の傷が、扉の向こうの母親の傷でもあったことに気づいた時の体験を軸に、自身の母親との合作も制作中だという。渡辺は、「弱い自分・弱い誰か」に寄り添う姿勢を、作品を通して社会に提案している。