ユゥキユキさんは、コスプレやアイドルなどのオタク文化を背景に活動するアーティスト。幅広いサブカルチャーに親しんできた彼女ですが、伝統芸能や山伏にも関心をもっているとか……。「フィルター」や「ファンタジー」をキーワードに異分野を結びつけていくユゥキさんの世界を、取材風景のチェキと一緒にご紹介します♡
『レイアース』『AKIRA』『天使禁猟区』の画集
ユゥキさんが作品制作で大事にしているのは「物語が伝わる世界観のつくり込み」。そしてそこに強く影響しているのは、ファンタジーもののマンガやアニメの世界観だと言います。「私が惹かれるのは、特に女性が描くファンタジー。ちょっと耽美的で、良い意味でスタイリッシュすぎないところが好きなんです」。その代表としてCLAMP作品を挙げてくれたほか、『AKIRA』が描く未来像や、『天使禁猟区』の「中二病的」な世界観にも影響を受けていると分析します。
「最近はパフォーマンスと絵画がリンクするような作品をつくっている」というユゥキさん。平面作品は、アニメの武器などの設定資料のように、描くもの一つひとつについてのエピソードを考えながら制作しているそうす。
山伏文化についての本 坂本大三郎『山伏ノート』
大学院生の頃、コスプレという「自らにフィルターを重ねる行為」を繰り返すうち、「それを取り払ったとき、自分はどう思うんだろう」と感じるようになったユゥキさんは、なんとそれを確かめる手段として、地元の山でテント暮らしを試みます。
ひとりで山に寝泊まりするなかで、野生動物に遭遇して命の危険を感じ、「死ぬかも」と思ったことが、とても大きな体験に。「フィルターを重ね続けることで現実があいまいになり、リアリティをあまり感じられなくなっていた自分が、そのときはめちゃくちゃ本能的になりました」。強烈な体験に突き動かされ、「命を奪う」体験として木の間伐にも参加したユゥキさんは、目に見えない命や魂のような、存在しているけど見えないものに興味を持つようになった」と話します。
以来、山にこもって自然と共存する山伏の思想に関心を持つようになり、「目に見えないけれど存在するもの」について考えているそうです。「小さい頃は自然が好きで、日が暮れるまで外で遊んでいた経験が、いまになって作品にもつながってきたのかもしれません」。
シャルル・フレジェの写真作品
「現実には存在しないのに信じられているもの」について興味を持ち、神や精霊、幽霊と、マンガやアニメのキャラクターは、誰も実際に見たことはないけれど想像力によって「存在している」ものとして、共通点を持っていると考えるようになったそう。銀座メゾンエルメス フォーラム(東京)で2016年に個展を開催した、フランスの写真家シャルル・フレジェが写すのは、様々な文化の神や、そういった存在にアプローチするための民俗芸能が背景にある「民族衣装」。「実在はしないのに信じられているものに扮装するという意味で、伝統芸能や祭文化とコスプレには近いものがあると思いました」と語ります。
アイドルのCD
幅広いサブカルチャーに詳しいユゥキさんは、アイドル文化も好きで、アイドルのステージと観客の関係性に興味を持っていると言います。「アイドルのオーディションを受けたり、アイドルカフェで働いたりもしていたんですけど、コスプレとは『フィルター』のあり方は違うと感じ、アイドルにはなり切れなかったんです」。憧れであり、未練も感じているアイドル文化。「私だけど私ではないもの」になるための「フィルターのあり方」について考え続けていることは、在学中の大学院博士課程での研究テーマにもつながっているそうです。
ユゥキさんの作品
「中学生くらいでオタクに目覚めて、コスプレを楽しんでいました。大学生の頃、コスプレイヤーたちが背景や撮影にこだわり、着て楽しむだけでなく『作品としてコスプレの表現をしたい』と考えるようになってきたのを見て面白さを感じ、コスプレとアートを融合した作品をつくるようになりました」。そこに神や民俗文化への興味も加わり、今年春の大学院の修了展では、古事記に登場する天照大御神をモチーフに、自ら「ユキテラス」に扮し、ピンクの世界で人々の参拝を待つ体験型の作品《ユキテラス大御神✡天岩戸伝説》を発表しました。
積極的に作品制作を続けているユゥキさんですが、「以前はオタク趣味やコスプレといえば『隠すべきもの』という雰囲気があったから、こうして表現に昇華させていくことには、自分の中でものすごく葛藤もありました」と、当初の迷いも語ってくれました。
「私に限らず、ネット上でつくりあげたキャラや、アプリで加工した写真、化粧をした状態など、生身の自分に『フィルター』をかけた状態のほうが、自分らしいと感じることがあると思います。他者になりたいという気持ちは、たんなる逃避願望ではなく、生きていることにリアリティーを感じるための手段なんです」。二次元と三次元を行き来し、どこまでもファンタジーを追求するユゥキさんは、誰よりもまっすぐ、自分が生きる現実を見つめてもいるのです。