• HOME
  • MAGAZINE
  • SERIES
  • 美手帖女子部。#1  理系女子・きゅんくんをつくったのは「フ…

美手帖女子部。#1 
理系女子・きゅんくんをつくったのは「ファンタジー」の世界!?

「美術手帖」編集部が様々なジャンルの女子クリエイターたちを訪ねて「私が影響を受けた作品」を教えてもらう連載「美手帖女子部。」がスタート! 第1回は、「ファッションとしてのロボット」をつくっている、きゅんくんが登場してくれました。

DMM.make akibaにて

 機能がない「ファッションとしてのロボット」をつくっている、ロボティクスファッションクリエイター・きゅんくん。羽根のようにも見える、背中に装着するロボット《METCALF(メカフ)》は、AKB48のライブ衣装として使われたことでも話題に。多彩なクリエイターや企業とのコラボレーションも展開しています。バリバリの理系かと思いきや、意外にもミュージカルや小説のファンタジックな世界観が大好き(!)という彼女。作業場として使っているというコワーキングスペース、DMM.make akiba(東京・秋葉原)で見せてもらったお気に入りの作品と、それぞれにまつわるエピソードを、取材風景のチェキと一緒にお届けします♡

『美女と野獣』(1992)『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(ロバート・ゼメキス監督、1985)のレーザーディスク

『美女と野獣』と『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のレーザーディスク

「小さい頃はよく家族と一緒に、父親が集めていたアニメやSFのレーザーディスクを見ていました」というきゅんくん。なかでも思い入れ深いのは、『美女と野獣』と『バック・トゥ・ザ・フューチャー』。

「『美女と野獣』は音楽が素敵だし、おとなしくて読書好きな主人公のベルは、ディズニープリンセスのなかでは珍しいタイプですよね。私も本を読むのがすごく好きだったので、知的なベルが小さい頃の憧れでした。それから、『バック・トゥ・ザ・フューチャー 』シリーズの未来にタイムスリップするシーンを初めて見たとき、近未来について想像したことが、いまつくっているものにつながっているような気がします」。

 その頃は家族と一緒にオペラやクラシックのコンサートに行くことも多く、その影響でいまも舞台、特にミュージカルが大好き。ストーリーや演者よりもステージ上での見せ方や表現方法に興味があって、中学では演劇部で演出や照明を担当していたそうです。

「ルネ・マグリット展」(東京国立近代美術館、1988)図録と、『はてしない物語』(岩波書店、1982)

ミヒャエル・エンデ『はてしない物語』

「装丁がすっごくいい!」というミヒャエル・エンデのファンタジー小説『はてしない物語』は、読書が大好きだった小学生の頃、クリスマスにサンタさんにお願いしたもの。本文が青と朱色の2色で印刷されていたり、表紙が布張りになっていたりと、工夫の凝らされたデザインを「物語にワクワクするようなキャッチーな要素を追加している」と表現。「いいものをつくっても、それだけでは良さは伝わらないし、魅力を受け手にきちんと伝えられるよう、デザインしてアピールすることが本当に大事だと思います。それは、この本に教えてもらったことかもしれません」。

 ほかにも、小学生のときは「バーティミアス」シリーズなどの異世界ファンタジーや、はやみねかおるの推理小説、中高生のときは森夏子の短編小説に夢中に。「はやみねさんの作品に出てくる、スゴイけどちょっと抜けてるキャラクターたちが、私の『かっこいい観』をつくったと思います」。

ルネ・マグリットの画集

 好きな美術作家は「ちょっと奇妙な空気感やタイトルが好き」だというルネ・マグリット。家にあった画集を幼稚園くらいからよく眺めていたといい、『マグリット展』(国立新美術館、2016)で実物の作品を目の前にしたときには、「二次元のキャラが三次元の世界に出てきたみたい」と思い、「頭がバグった(笑)」とか。

「マグリットの作品って、全部をきれいにまとめているわけではなくて、ちょっと不思議なものを入れたり、少しだけ抜けてるところをつくったりしていて、『外しの感覚』があると思う。そういうバランスの取り方は、自分が作品をつくるときの考え方にも通じているんじゃないかと思います」。

「オカルトテクニクス」展(Arts Chiyoda 3331、2010)

「機械をもつ魂」をキーワードにメディア芸術のインスタレーションが展示されていた、思い出のグループ展。「この展覧会で、井上恵介さんの《Specimens》に出会いました。水の中にオーディオに使われる電子部品が入っている作品で、そのときは稼働していなかったのですが、すごくかっこよくて」。それを見た頃から、自分はアートではなくプロダクトとして、かっこいい稼働するメカをつくりたい、と考えるようになったそうです。

《METCALF clione(メカフ クリオネ)》を装着した様子(モデルは近衛りこ) 写真=荻原楽太郎

きゅんくんの作品:《METCALF clione(メカフ クリオネ)》

「いま、理想の最終形態にむけてアームロボットのプロトタイピングを続けています」という彼女が見せてくれたのは、アクリルを素材にグラフィックをプリントし、スマホで制御できるようにした、軽くて小さいシティユースの「身に着ける」ロボット《METCALF clione(メカフ クリオネ)》。

「私がつくるロボットは人を助けるような機能はないけれど、身に着けた人をどういうふうに見せるかという点は『機能』ともいえます。いまは構造をシンプルにしてわかりやすく機能を制限しているけど、今後は見た目を既存のロボットに近づけてもファッションアイテムらしさを失わないような、ロボットのかたちを探っていきたい」と話します。

《METCALF clione(メカフ クリオネ)》を持つきゅんくん。最近のマイブームは「戦争映画を見ること」! 「はまったら一気見してしまうタイプで、第二次世界大戦のヨーロッパ戦線に関する映画をいろいろ見ていました。感情的でなく現実をそのまま写し取ったようなものが好きです」

 技術者としてアーティストとのコラボや、量産商品の生産も今後の目標。「私は基本的に、商業的なものに興味があるんです。社会と関わるということは経済を回すことでもあると思うし、社会生活を送るのがあまり得意ではない私も、商品をたくさんつくってたくさんの人に届けることで、社会に変化を与えられるかもしれない。そこに魅力を感じています」。

 自由な発想とテクノロジーを駆使してユニークな活動を続けるきゅんくん。自作のもつ世界観を固定せず「自由に身に着け、解釈してほしい」という彼女の柔軟なクリエイションは、本や美術作品などを通してたくさんの「世界」に触れてきた経験が生んだものなのかもしれません。

次回は、「禁断の多数決」元メンバーで、DJ、モデル、絵画制作など多彩な活動を行う中村ちひろさんが登場予定です! お楽しみに♡

編集部・近江ひかり

Exhibition Ranking