緑鮮やかな木立を背に、池の畔に佇む美術館は、印刷インキなどを扱う世界トップレベルの化学メーカー・DICによって、1990年に設立された。20世紀美術、とりわけ戦後アメリカ美術にも早期に着目し、収蔵数は1000点を超える。建築家・海老原一郎が設計した11の展示室は、大きさや形、床や壁の色、窓の位置や採光まで、一部屋ごとに意匠が異なり、コレクションを堪能するための最適の演出がなされている。
例えば、フランク・ステラの作品が並ぶのは、ニューヨークの画家のスタジオとほぼ同じ大きさの解放的な空間。長い通路を経て洞窟に潜るように設計された半地下の「ロスコ・ルーム」は、薄暗い照明のなか、七角形の部屋でマーク・ロスコの7点の壁画と静かに対面することができる。
企画展は、コレクションの一点一点を作家や美術史の流れのなかに位置付け、さらなる理解を深める目的で、年2〜3回催される。開催中のブリジット・ライリー展は、日本で実に38年ぶりとなるもので、改めてライリーの存在を美術史の文脈で評価し、その制作の真髄に迫る試みがなされている。
レストランや茶席では、企画展に合わせて趣向を凝らしたランチメニューや和菓子も楽しめる。四季折々に異なる表情を見せる庭園を散策すれば、美術と自然の魅力に溢れたこの空間に、何度も訪れたくなるに違いない。
広報 海谷紀衣さんに聞くみどころ
展覧会では、イギリスを代表する女性画家ブリジット・ライリーの作品を、制作年代順ではなく、「カーブ」「ストライプ」「ダイアグナル」という3つの重要なモチーフを軸に分類。作家がどんな問題に取り組み、それを克服していったかが理解できる展示です。とりわけライリーの作品は、実物を見ないと体験できない独特の感覚があります。出品作品は31点中20点が海外の所蔵で、さらに1点は美術館の壁に直接描かれたもの。二度と見られない構成になっています。ぜひ、この機会を見逃さず、お出かけください。
展示アーティスト
カジミール・マレーヴィチ、クロード・モネ、ジャクソン・ポロック、ジョゼフ・コーネル、パブロ・ピカソ、ピエール・オーギュスト・ルノワール、ピエール・ボナール、ヘンリー・ムーア、藤田嗣治、フランク・ステラ、ブリジット・ライリー、マーク・ロスコ、マックス・エルンスト、ラースロー・モホイ=ナジ、レンブラント・ファン・レイン、ロバート・ライマン ほか
(『美術手帖』2018年8月号「この夏・秋に行きたい!全国アートスポットガイド」より))