細やかな配慮に満ちた自然とアートの魅力溢れるDIC川村記念美術館で、現代美術との幸福な出会いを

今年も夏から秋にかけて、日本全国で様々な展覧会や芸術祭が目白押し。作品との出会いはもちろん、その場所でしか見られない景色や食事も一緒に楽しめるスポットをピックアップ。第2回は、千葉県・佐倉市のDIC川村記念美術館を紹介する。

文=永峰美佳

サイ・トゥオンブリーのブロンズ彫刻と絵画作品を常設する「トゥオンブリー・ルーム」。両サイドの大きなガラス窓から緑の自然光が注ぐ。
撮影=池ノ谷侑花(ゆかい)
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 緑鮮やかな木立を背に、池の畔に佇む美術館は、印刷インキなどを扱う世界トップレベルの化学メーカー・DICによって、1990年に設立された。20世紀美術、とりわけ戦後アメリカ美術にも早期に着目し、収蔵数は1000点を超える。建築家・海老原一郎が設計した11の展示室は、大きさや形、床や壁の色、窓の位置や採光まで、一部屋ごとに意匠が異なり、コレクションを堪能するための最適の演出がなされている。

 例えば、フランク・ステラの作品が並ぶのは、ニューヨークの画家のスタジオとほぼ同じ大きさの解放的な空間。長い通路を経て洞窟に潜るように設計された半地下の「ロスコ・ルーム」は、薄暗い照明のなか、七角形の部屋でマーク・ロスコの7点の壁画と静かに対面することができる。

 企画展は、コレクションの一点一点を作家や美術史の流れのなかに位置付け、さらなる理解を深める目的で、年2〜3回催される。開催中のブリジット・ライリー展は、日本で実に38年ぶりとなるもので、改めてライリーの存在を美術史の文脈で評価し、その制作の真髄に迫る試みがなされている。

ブリジット・ライリー ここから 1994 油彩、リネン 個人蔵
© Bridget Riley 2018, all rights reserved Courtesy of David Zwirner,
New York/ London

 レストランや茶席では、企画展に合わせて趣向を凝らしたランチメニューや和菓子も楽しめる。四季折々に異なる表情を見せる庭園を散策すれば、美術と自然の魅力に溢れたこの空間に、何度も訪れたくなるに違いない。

美術館を囲む広大な庭園では種々多様な草木が育ち、四季折々の花や紅葉が楽
しめる。2017年にはテラスがリニューアルされた 撮影=池ノ谷侑花(ゆかい)

広報 海谷紀衣さんに聞くみどころ

 展覧会では、イギリスを代表する女性画家ブリジット・ライリーの作品を、制作年代順ではなく、「カーブ」「ストライプ」「ダイアグナル」という3つの重要なモチーフを軸に分類。作家がどんな問題に取り組み、それを克服していったかが理解できる展示です。とりわけライリーの作品は、実物を見ないと体験できない独特の感覚があります。出品作品は31点中20点が海外の所蔵で、さらに1点は美術館の壁に直接描かれたもの。二度と見られない構成になっています。ぜひ、この機会を見逃さず、お出かけください。

ブリジット・ライリー 正方形の動き 1961 テンペラ、パネル
 アーツ・カウンシル、ロンドン
© Bridget Riley 2018, all rights reserved Courtesy of David Zwirner,
New York/ London

展示アーティスト

カジミール・マレーヴィチ、クロード・モネ、ジャクソン・ポロック、ジョゼフ・コーネル、パブロ・ピカソ、ピエール・オーギュスト・ルノワール、ピエール・ボナール、ヘンリー・ムーア、藤田嗣治、フランク・ステラ、ブリジット・ライリー、マーク・ロスコ、マックス・エルンスト、ラースロー・モホイ=ナジ、レンブラント・ファン・レイン、ロバート・ライマン ほか

『美術手帖』2018年8月号「この夏・秋に行きたい!全国アートスポットガイド」より))