美術とのユニークな対話の場を提供しているセゾン現代美術館では、この夏、注目の企画展「レイヤーズ・オブ・ネイチャー その線を超えて」が開催されている。抽象表現主義の巨匠サム・フランシスと、その息子であるフランシス真悟、ベルリン在住で日本の美術館では初展示となるクリスチャン・アヴァという3人の作家が織りなす作品群は、色、光、空間、時間、生命など、目に見えないものを含めた自然の層と絵画的な色彩の層、記憶の層が重なり、鑑賞者もその層の一部であることを感じられる、体感型の展示が評判だ。
セゾン現代美術館の魅力は、なんといってもそのコレクションの質の高さにある。1981年開館、現代美術の流れを通覧できるマスターピースを含む約500点の所蔵から約100点を選び、年2回の常設展示替えを行う。さらに今年からは現代作家たちによる企画展をスタート。時代を拓く開拓精神はいまに貫かれている。
建築家・菊竹清訓の設計による、自然に溶け込む低層の建物は力強く、小径を下りていくと、彫刻家・若林奮の構想に基づいた回遊式の庭園へとつながる。川のせせらぎを聴きながら点在する彫刻を巡れば、ハルニレの林、霧や風、野鳥や動物たち、四季折々の草花などの気配に包まれる。軽井沢の木漏れ陽のなかで、自然との調和、現代アートの真の愉しさを味わいたい。
学芸員 坂本里英子さんに聞くみどころ
今回の企画展では、壮大な宇宙観を展開したサム・フランシスの作品から各作家が1点ずつ選び、自身の作品によって返答するという、興味深い仕掛けがあります。また「紙」という自然素材の質感やメディアとしての面白さが、作品から伝わってくるかと思います。展示室の窓には木々の緑が揺れ、庭には動物たちもやってきます。軽井沢の食を堪能できるランチも人気で、個人的にはシェフのつくる四川麻婆がおすすめ。美術館全体の広がりのなかで、「自然との共生」というコンセプトを、実感していただけたらと思います。
展示アーティスト
荒川修作、アンゼルム・キーファ-、アンディ・ウォーホル、クリスチャン・アヴァ、サム・フランシス、ジャクソン・ポロック、ジャスパー・ジョーンズ、中西夏之、パウル・クレー、フランシス真悟、マーク・ロスコ、マン・レイ、横尾忠則、ワシリー・カンディンスキー ほか
(『美術手帖』2018年8月号「この夏・秋に行きたい!全国アートスポットガイド」より))