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2021.2.15

書評:その「コレクション」はいかに生まれたのか。『トライアローグ 語らう20世紀アート』

雑誌『美術手帖』の「BOOK」コーナーでは、新着のアート&カルチャー本から注目の図録やエッセイ、写真集など、様々な書籍を紹介。2021年2月号の「BOOK」2冊目は、横浜美術館、愛知県美術館、富山県美術館の西洋美術コレクションを一堂に集めた「トライアローグ」展のカタログを取り上げる。

文=中島水緒(美術批評)

『トライアローグ 語らう20世紀アート』の表紙

美術館コレクションのゆくえ

 公立・私立の区別を問わず、日本の美術館には近代以降の西洋美術をコレクションする館が非常に多い。いったいなぜか。「20世紀美術」と聞いて西洋のそれを即座に想起するのは国内で形成されてきた美術史の言説が欧米規準の価値観に深く影響されているからだが、そうした価値観を客観的にとらえ直すためにも、時には実作を見る機会とともに「いま、目の前にある作品が自分たちのもとに届けられるまでの来歴」に思いを致すことも必要な作業だろう。

 本書は、横浜美術館、愛知県美術館、富山県美術館の3館の西洋美術コレクションを一堂に集めた共同企画展のカタログだ。「トライアローグ」とは三者会談、鼎談の意味。3館の協力体制と熟議を経て、20世紀西洋美術を総覧する稀な機会が実現した。コレクション展ゆえに「20世紀美術」の通史と見なすには欠けがあるが、しかしだからこそ、教科書的な概説ではアクセントを置かれない文脈の発見が読んでいて(見ていて)楽しい。抽象絵画の始祖だが意外と存在を顧みられることの少ないフランティシェク・クプカ、日本の公立美術館では収蔵例の少ないバルテュスといった思いがけない顔ぶれが確認できたり、(展覧会での出品こそなかったが)ジャン・アルプの妻でありマイナーながらに注目すべき作品を残したゾフィー・トイバーへの言及もある。図版1点ごとに付された解説はリーダブルで、「70年代に来日したライリーが尾形光琳の波の図案帳を調査していた」などの小ネタも仕入れることができる。

 同時に、本書を「日本における西洋美術コレクション形成の歴史」を知るためのひとつの資料としても活かしていくべきだろう。巻末に付された3館の学芸員による鼎談では、各館の収集方針が示されるだけでなく、コレクション形成がMoMAモデルに強く影響されていること、イズムの交替で美術史の流れを構成する旧来的な方法論にいまだ縛られていることなど、各館が抱える問題点も明らかにされる。

 「20世紀美術」というくくりには限界があり、コレクション展の組み立て方も改革を求められる局面にある。展覧会は編年体による「20世紀美術史」の提示を脱却しなかったが、その限界を認識するための反省材料は、本書の要所から読み取ることができるのではないか。その意味で、3館の若手・中堅学芸員がコロナ時代を踏まえてこれからの美術館を模索する「リレー書簡」はもっとも興味深かった。美術館におけるコレクションの在り方が、新しい世代によって継承・改革されていくことを期待したい。

『美術手帖』2021年2月号「BOOK」より)