東京・京橋のアーティゾン美術館で、現代美術家・藤井光による展覧会「ジャム・セッション 石橋財団コレクション×藤井光 WHOSE LIGHT? —だれのひかりか」が開幕した。会期は10月24日〜2027年1月31日。
本展は石橋財団コレクション22点と新作を含む藤井の作品を組み合わせ、古代ギリシアから中世、近代、戦後に至る歴史をたどるものだ。植民地主義や戦争、核をめぐる問題を取り上げながら、「真理」を生み出す構造そのものを問い直す試みとなっている。担当は同館学芸員の上田杏菜と賀川恭子。

アーティゾン美術館では、2020年の開館以来、石橋財団コレクションと現代美術家が共演する展覧会シリーズ「ジャム・セッション」を開催してきた。その第7回に迎えられた藤井は、1976年東京生まれ。映像やインスタレーション、ワークショップなどを通じて、芸術と歴史、社会の関係を探究してきたアーティスト。リサーチやフィールドワークを制作の基盤とし、脚本と演出による映画的な手法とドキュメンタリーを織り交ぜながら、歴史的な出来事や社会に内在する構造的暴力を取り上げてきた。
本展の着想源となったのは、古代ギリシアの哲学者・プラトンの『国家』第7巻に登場する「洞窟の比喩」だ。そこで語られる「光=真理」という関係に注目した藤井は、光が何を照らしているのかではなく、「その光を誰が照らしているのか」という問いへと視点を反転させる。
展示空間全体をひとつの人類史の物語として構成する本展では、古代の彫刻から近現代の絵画まで、異なる時代や地域の美術作品が藤井の映像やインスタレーションとともに展開される。美術作品を歴史の表象として捉えるだけではなく、その背後にある社会構造や、そこに組み込まれる芸術家自身の立場にも目を向ける試みだ。
古代ギリシアの民主主義から始まる、人類史の物語
展示の起点となるのは、石橋財団が所蔵する《パルテノン神殿浮彫断片模刻》だ。


古代ギリシアの彫刻を模したこの作品に続き、藤井の映像インスタレーション《第一の事実》(2018)が登場する。同作は、古代ギリシアのアテネで紀元前632年頃に起きた、貴族キュロンによる反乱を題材としており、22分の映像を含むインスタレーションとして展開される。
アテネの僭主の座を狙ったキュロンの反乱は失敗に終わり、神殿に逃れて庇護を求めた支持者たちは、執政官らによって処刑されたと伝えられる。この事件は、その後のアテネにおける民主制の成立にも関わる出来事として位置づけられている。2016年、アテネ近郊で約80体の若い男性の白骨遺体が発見された。これらはキュロンの反乱に関わり、処刑された人々のものではないかと考えられており、現在も考古学的な調査が続けられている。《第一の事実》では、この発掘現場の映像や考古学者らの証言とともに、藤井の演出によって当時の処刑場面を再現した映像が組み合わされる。民主制成立以前の暴力の記憶を、現代の身体を通じて呼び戻す作品だ。

続いて登場するのが、藤井による新作《服従する者を赦し、驕る者を討て》(2026)だ。暗い展示空間に置かれたガラスケースには、石橋財団が所蔵するシリア・パレスチナやイランなどに由来する古代から中世のガラス器や陶器が並ぶ。
これらの器物が生み出されたのは、ローマ帝国の東方辺境とイラン帝国が接する地域だ。ギリシア・ローマ世界やセム系諸文化、イラン世界などが交わり、様々な言語や宗教、政治秩序が影響を与え合ってきた。藤井は、文明の交流と対立が繰り返されてきた地域の器物を通じて、軍事力と統治制度によって維持された「ローマの平和(パックス・ロマーナ)」の歴史を取り上げる。そこには、平和と武力が必ずしも対立するものではなく、ときに一体となって存在してきたという問題がある。

さらに展示は、宗教改革の時代へと進む。ハインリヒ・アルデグレーファー(1502〜1555/61)の「ロトと娘たち」に関する一連の版画や、アルブレヒト・デューラー(1471〜1528)の木版画《三羽の兎のいる聖家族》(1498)などが紹介される。古代の彫刻や中世の器物、キリスト教を題材とした宗教画が、藤井の作品とともに歴史の異なる局面をたどる手がかりとなっている。

































