インスタレーションそのものが自律的に動き出す方向性を示すのが《Sounding Lines(測深線)》である。多数のバネが空間を横切り、そこに疑似餌を模した立体が吊るされている。包丁や茶こしなどの日用品が組み込まれたルアーは、モーターの振動によって波を描き、独特の音響を生む。「Sounding」には水深を測る意味と音を響かせる意味があり、両義的なタイトルが示すように、作品は測定と音響を同時に体現している。

香港での初演では、釣り人がルアーに求める「見た目」と「動き」の違いに触れながら、交友関係を外見ではなく行動で選ぶべきだという自身の考えを語った。《Catch or Be Caught(とるかとられるか)》は蟹漁の罠を模した立体がモーターで上下する作品であり、捕らえる側でありながら捕らえられる存在にもなりうる、人間関係や欲望の二重性を映し出している。

最後の展示室には、2022年ヴェネチア・ビエンナーレで発表した《Sink or Float》を発展させた《Social Sink Microcosm(流し台で社会の縮図)》が紹介。業務用シンクの上にアクリル板を設置し、下部から風を送り込むことで、上に置かれたカタツムリの殻やスポンジ、プラスチック片などが空気の流れに乗って滑らかに動く。物体それぞれの軌跡は予測不能でありながら、全体としてひとつの社会の縮図を形づくる。


同時に展示される映像作品《Point Reflection(点対称)》では、シンクを下から撮影し、オブジェの動きをワンショットで捉えている。多くの殻が同じ方向に回転するなかで、羽根をあしらった殻だけが逆方向に回転する。その姿に笹本は、多数派に同調せず異なる動きを選ぶ存在──クィアな視点を重ね合わせる。顔をシンクに近づけ、風を頬で受ける笹本自身の姿は、観察者でありつつ、小さなパフォーマーに寄り添おうとする研究者のようでもある。
なお会期中には、新作を含む4作品のパフォーマンスが複数回予定されている。展示と実演の両面を往還する本展は、20年にわたる笹本晃の実践を検証し、その先を示す意欲的な試みとなっている。




















