鮫島ゆいは、「戦うこと、祈ること」をテーマに複数の断片を描き出し、《Ritual Room (Pretend to be happy) 》を制作した。断片となっているのは描かれているモチーフのみならず、キャンバスそのものも断片的にしか存在せず、鑑賞者は絵画の全体像を想像で補うしかない。鑑賞者と絵画のはざまで起こる、見ること・見られることの行為が重要な意味を持つ作品だ。

「憧れのイケメン」をレリーフとして制作する𠮷田芙希子は、美しい人物を髪の毛のウェーブからまつげの一本一本まで精細に掘り起こした《Go into the medaillon》を展示している。しかし、頭部のみのその人物は無機質な表情で俯き、またレリーフの大きさもやや過剰と言える。誰の手に渡ることも拒否するようなこの作品が、既存の美術史に問いかけることは何か。

選考委員長を務めた植松は、「全国の推薦委員によってアーティストが推薦され、日本における現代美術の様相が俯瞰することができるのはVOCA賞の大きな特徴。グランプリの宮本さんの作品には『日常』という言葉が含まれるが、コロナ禍を経て、ようやく取り戻したかのようにみえる我々の日常のなかには、いまだ見えない問題が孕んだままだ」と、挨拶のなかで今回の選考にあたっての所感を述べた。
また、昨年「VOCA展」実行委員会と上野の森美術館は、1人のキュレーターは1人のアーティストを推薦するという構造が孕みうる様々なハラスメントを防止すべく、「『VOCA展』に関するハラスメント防止のためのガイドライン」を制定した。主催者挨拶にて、上野の森美術館副館長の玉木英二は、このガイドラインの制定を踏まえて次のようにその思いを語った。「昨年、このVOCA賞を支えてくださっていた高階秀爾先生が逝去された。先生が残した文章を改めて読み返すと、“VOCA賞の推薦形式は、日本全国における現代美術の多様な表現を掬い上げることができるのではという思いがあったから”であると。ガイドラインの制定などを行いながらも、今後もこのVOCAの活動を守っていきたいと考えている」。
なお、上野の森美術館ギャラリーでは、過去のVOCA出展者・竹中美幸による個展「竹中美幸 —わたしとかなた—」も同時開催されているため、あわせてチェックしてみてほしい。