同じアル・ムレイハ・スクエアで、ダカール生まれのクウェート人アーティスト、モニラ・アル・カディリと、フィリピン系カナダ人のアーティスト、ステファニー・コミランの作品も見応えのある展示だった。2つの巨大な赤いムレックス貝殻を並べて吊るすカディリのインスタレーション《Gastromancer》(2023)は、藻類、フジツボ、ムール貝が付着するのを防ぐために油槽船に使われる赤い色のバイオサイド塗料「トリブチルスズ(TBT)」の浸透により、雌のムレックス貝が雄に変わることからインスピレーションを受けている。作品の内側から、2つの貝殻が人類の活動によって女性から男性に変化する過程を語る。

Photo by Motaz Mawid
また、コミランの「Search for Life」プロジェクトでは、アラビア湾、フィリピン、中国間での真珠採取の歴史や真珠生産の工業化について調査している。同プロジェクトの第2編となる《Search for Life II》(2025)では、真珠採取とその歴史に関する物語を、中国の真珠市場からのライブ配信と組み合わせている。かつて真珠採集が主な収入源であった湾岸諸国の歴史を思わせつつ、海で働く移民たちの生活も表現している。

Photo by Danko Stjepanovic
そのほか、シンガポール出身のアーティスト、ジョン・クランは古代中国の占い方法である「紫微斗数」を用いて、(予約制で)来場者にそれぞれの人生の出来事を予測したり、疑問に対して答えたりするパフォーマンス型の作品《Reading by an Artist》(2023-)を展開。ニュージーランドを代表するアーティスト、マイケル・パレコウハイの《He Korero Purakau mo te Awanui o te Motu: Story of a New Zealand river》(2011)は、1926年製のスタインウェイピアノにマオリ族の彫刻などのモチーフが彫り込まれている。オープニングの際にこのピアノは、パフォーマーによって演奏され、この作品は楽器として演奏され、鑑賞者が聴くことによって完成するという。

Photo by Motaz Mawid
また、絵画、彫刻、映像などの作品に加え、武玉玲(アリュアーイ・プリダン)やリートゥ・サッタール、ヘレン・アスコリらのアーティストが、様々な伝統的技法を使いながら、異なる地域の歴史や物語を編み込んだテキスタイルの作品も今回のビエンナーレで多数紹介されており、織りという行為にまつわる連帯や一体感が感じられる。

Photo by Danko Stjepanovic



















