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不確実な時代に、私たちは何を「to carry」するのか。「第16回シャルジャ・ビエンナーレ」で見せる精神や記憶の継承【3/5ページ】

 筆者は、2月6日〜9日に行われたビエンナーレのオープニング・プログラムに参加し、世界中から集まったキュレーターやアーティスト、記者などとともに4日間にわたって全会場を見て回った。非常に広範なテーマやアプローチを持つ数多くの作品のなかでとくに印象に残ったのは、儀式、パフォーマンス、あるいは精神的な体験を通して、先祖や土地とのつながりや記憶を呼び起こす作品だ。

 アル・ハムリーヤにあるかつての政府庁舎を改装した展示スペース「オールド・アル・ディワン・アル・アミリ」では、サモア出身の建築家/学者であるアルバート・L・レフィティが、オープニングで来場者に儀式的なパフォーマンスへの参加を呼びかけた。 アーティストは来場者一人ひとりにカヴァの汁(コショウ科の植物であるカヴァの根を砕き、水を加えてつくられる飲み物)を提供し、来場者は床にその汁を少し振りかけ、自己紹介として自分の名前や出身地、「誰をシャルジャに連れてきたか」を話すことが求められた。

アルバート・L・レフィティによるパフォーマンスの様子

 来場者の多くは、先祖または先祖の思い出とともにシャルジャを訪れた、と答えた。展示室の壁面には、レフィティが「コスモグラム」と呼ぶ実験的な民族誌学的なドローイングが展示されており、このセレモニーに参加した人々の名前や、参加者と環境とのつながりが記録されている。この作品は、ビエンナーレのテーマ「to carry」を深く反映しており、人々が育った土地を自らの選択で離れる、あるいはやむを得ずに引き離される際に、何を抱えて、何を持ち続けているのかについて考えさせる。

 参加アーティストがもっとも多いシャルジャ・シティのアル・ムレイハ・スクエアでは、プエルトリコ人アーティスト、ホルヘ・ゴンザレス・サントスの作品《Jatibonicu(People of Sacred High Waters)》(2024-25)も印象的だった。サントスは、シャルジャの伝統的な屋敷を使った会場で、先住民の陶器スタジオとのコラボレーションで制作された陶器や、伝統的な織物の技法を使った布の作品などを展示。また、会場では職人がろうそくをつくったり、布を織ったりする作業が続けられており、オアシスのような閑静な空間で、先住民族の伝統や土地とのつながりを感じさせる。

ホルヘ・ゴンザレス・サントス《Jatibonicu(People of Sacred High Waters)》(2024-25)の展示風景より