「生誕140年 YUMEJI展 大正浪漫と新しい世界」(東京都庭園美術館)開幕レポート。夢二の新たな側面を垣間見る

「大正ロマン」を象徴する画家・竹久夢二の生涯をたどる「生誕140年 YUMEJI展 大正浪漫と新しい世界」展が、東京都庭園美術館でスタートした。本展の見どころをレポートする。

文・撮影=王崇橋(ウェブ版「美術手帖」編集部)

展示風景より

 「大正ロマン」を象徴する画家・竹久夢二(1884〜1934)。その生誕140年と没後90年を記念する展覧会「生誕140年 YUMEJI展 大正浪漫と新しい世界」が、東京都庭園美術館で開幕した。会期は8月25日まで。

 正規の美術教育を受けることなく独学で自身の画風を確立し、「夢二式」と称される叙情的な美人画によって人気を博した夢二。グラフィックデザイナーの草分けとしても活躍し、本や雑誌の装丁、衣服や雑貨などのデザインを手がけ、生活のなかの美を追い求めた。

 本展では、岡山(本館)と瀬戸内(別館)にある夢二郷土美術館のコレクションを中心に初公開資料を含む約180点の作品を紹介。最新の研究に基づく新たな視点から夢二の生涯をたどる。

展示風景より

 展覧会は、「清新な写生と『夢二のアール・ヌーヴォー』」「大正浪漫の源泉──異郷、異国への夢」「日本のベル・エポック──『夢二の時代』の芸術文化」「アール・デコの魅惑と新しい日本画──1924-1931年」「夢二の新世界──アメリカとヨーロッパでの活動──1931-1934年」の5章構成。概ね年代順に展開されている。

 本展の見どころのひとつは、アール・デコ様式の旧朝香宮の自邸であった会場で、夢二の作品世界を味わうことだろう。本展の担当学芸員・鶴三慧(東京都庭園美術館 学芸員)によれば、朝香宮家と夢二が生きた時代は重なっており、実際に朝香宮家の居室には夢二の色紙が飾られていた逸話も残されているという。「旧朝香宮邸は、美に囲まれて日々の生活を送るという夢二の理想を体現した空間であると思い、当館で本展を開催することに決めた」(鶴)。

展示風景より
展示風景より

 例えば、東京都庭園美術館 本館2階では、現存する夢二の最初期の油彩画作品《初恋》(1912)などが展示されている。同作は、1912年に京都府立図書館で開催された「第一回夢二作品展覧会」で、夢二が初めて公開した油彩画。夢二の油彩画は約30点しか現存しておらず、この作品を含めて夢二郷土美術館ではそのうちの13点を所蔵している(本展の展示作品187点のうちの186点が同館コレクション)。

展示風景より、《初恋》(1912)

 また、同じフロアに展示された軸装の《加茂川》(1914)と油彩画の《女》(1918)は、夢二郷土美術館創設者で初代館長の松田基が1951年に梅田の古書店で出会い、初めて購入した夢二の作品。この出会いを機に夢二の里帰りを念じた本格的な作品収集を開始し、15年後の夢二郷土美術館の創設に至った。

展示風景より、左は《加茂川》(1914)
展示風景より、右は《女》(1918)

 本展の目玉作品は、会場の入口で展示されている油彩画《アマリリス》(1919)と言える。大正中期に描かれ、長年行方不明だったこの作品は、近年の調査により発見され、昨年に夢二郷土美術館に収蔵された。夢二の恋人・お葉と考えられる着物姿の女性と鉢植えのアマリリスの花が描かれた作品は、今月、夢二郷土美術館でわずか5日間の限定で公開。本展は、それを初めて本格的に公開・展示する機会だ。

展示風景より、左は《アマリリス》(1919)

 新館では、夢二が外国人女性の裸婦を描いた唯一の油彩画作品《西海岸の裸婦》(1931-32)が展示。夢二郷土美術館 館長代理の小嶋ひろみによれば、同作が夢二郷土美術館に収蔵されたきっかけは、Facebookに寄せられた1通のメッセージだったという。1931年からハワイ経由で欧米へ外遊する夢二がアメリカ西海岸で描いた作品は、ロサンゼルスの日系人とそのアメリカ人の友人に渡され、最終的にはその令孫から夢二郷土美術館に譲り受けられた。

展示風景より、右は《西海岸の裸婦》(1931-32)

 展覧会の最後では、夢二が晩年に欧米各地を巡る旅で描いた外遊スケッチが公開。夢二が1934年9月に亡くなるまで、半年以上にわたって夢二を看取った医師・正木不如丘の手元に残されたこのスケッチ帳では、晩年における夢二の足跡をうかがうことができる。

展示風景より、「正木不如丘旧蔵外遊スケッチ」シリーズ

 本展では、夢二の多彩な世界観が楽しめるいっぽう、その新たな側面を垣間見ることもできる。鶴学芸員は、「晩年、夢二は新たな可能性を求めて海を渡るが、帰国後、病に倒れて志半ばでこの世を去った」と話しつつ、本展について次のような期待を寄せている。「もし夢二が少し命をながらえることができたのなら、また新たな展開が待っていたかもしれない。本展を通してそれを感じ取っていただけたら」。

展示風景より、《一力》(1915)
展示風景より
展示風景より

編集部

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